将棋を学ぼう(4)
玉・飛・角・金・歩という5種類の駒の動きを学んできた皆さんは、これらの駒を使って玉を詰ませたり詰まされたりといった終盤戦の醍醐味を味わうことができました。今回は残る3種類(銀・桂・香)の駒の動きを紹介するとともに、すべての駒を使った将棋の序盤戦について導入していきたいと思います。
■この項で学ぶこと
銀桂香の動き 取られたら取り返す 垂れ歩 飛車先の歩交換 平手戦・駒落ち戦 駒の損得計算
■銀・桂・香の動き
まずは銀(銀将)の動きを紹介します。
銀はこのように動きます。横と後ろに動けないのが特徴。金の動きと似ていますね。金と銀はどちらも人間の将軍を模した駒なので前方一帯を見渡すことができますが、それでも人間なのでそれ以外の方向に弱点があります。
金と銀の動きを見比べるとわかるように、おたがいの見ることのできない部分を補うような関係性と知っておくとおぼえやすいかもしれませんね。適材適所は将棋だけでなくビジネスなどにも通じる大切な考え方です。
銀が成った駒は成銀(なりぎん)と呼ばれ、その動きは金とまったく同じになります。
続いて桂(桂馬)の動き。
かなり特徴的な動きで、Yの字に動くことができます。桂について語る際に欠かせないのが進路上にある相手の駒も味方の駒も飛び越えることができるという点。この特殊性が将棋というゲームを奥深いものにしているのではないでしょうか。上級者になると桂をうまく使えるかどうかが勝敗を分けることもよくあります。
桂が成った駒は成桂(なりけい)と呼ばれ、動きはこちらも金とまったく同じです。
そして香の動きについて。
進路上を遮る駒がない限りは前方に好きなだけ進むことができます。ただし飛と違って戻ることはできませんので勢いあまって相手に取られないようにうまく使ってあげましょう。
成った駒は成香(なりきょう)と呼ばれ、こちらも動き方は金とまったく同じです。
おつかれさまでした。これですべての駒の動き方を知ることができました。
■詰将棋を解いてみよう
今回習った駒の特徴を知るためにいくつか詰将棋の問題を解いてみましょう。うまい王手をかけて相手の玉を詰みにできれば正解です。
第1問
第2問
第3問
それでは解答です。
解答
第1問 ▲2一銀不成まで
第2問▲2三桂不成まで
第3問 ▲1三香まで
銀・桂・香は成るといずれも金と同じ動きになりますが、ポイントとしては場合によっては不成で(成らないままで)使うことがいいこともあるということ。飛や角だとほとんどすべてのケースで成ったほうがいいことを考えると好対照ですね。
それではそろそろすべての駒を使った実戦に入っていきましょう。40枚すべての駒を使う戦いを平手(ひらて)戦と呼び、ハンデ戦である駒落ち(こまおち)と区別します。
■いざ実戦!(失敗例①)
すべての駒を使った実戦を始めてみます。講座のはじめのころと比べるとだいぶ駒が増えましたが、心配は要りません。「駒を取られたら取り返す」「駒得することを心がける」など、基本的なことを忘れなければすこしずつ慣れていくことができるでしょう。
【初手からの指し手】
▲7六歩△8四歩
▲5五角(第1図)
先手は勢いよく角を飛び出しました。
【第1図からの指し手】
△5四歩▲7三角成
△同桂(第2図)
先手は角を勢いよく飛び出していったものの、後手の桂の利きをうっかりしてしまったようです。先手は歩を取ったものの角を失って駒損に。この桂の守りは非常に強力で、実戦でもよく出てくるので覚えておいてください。
■飛車を使ってみる(失敗例②)
【初手からの指し手】
▲2六歩 △3四歩
▲2五歩 △8四歩
▲2六飛 △8五歩
▲4六飛 (第3図)
角を使った攻撃で失敗した先手は、今度は飛車を使うことを考えます。第3図の▲4六飛は後手が放っておけば▲4三飛成(参考図)と成り込む狙い。
狙いを持って指すこと自体は素晴らしいのですが…
【第3図からの指し手】
△3二金(途中図)
▲5六飛 △4二銀
▲6六飛 △同 角(第4図)
飛車を成り込もうとしたときに後手は金銀を使って対処。こうなるとなかなか先手も狙いが実現できません。ついには動かした飛を角で取られて失敗となってしまいました。
角と飛の交換は、角と歩の交換ほどの損ではありません(後述)。第4図では▲6六同歩と「取られたら取り返す」作戦を発動すればまだまだ先は長いものの、序盤早々に攻めの要である飛を失うのは苦しい限り。
攻めようと思ったときに、飛や角を大きく動かすだけではうまくいかないことがわかりました。
■攻めの理想形とは
【初手からの指し手】
▲2六歩 △3四歩
▲2五歩 △8四歩
▲2四歩 (途中図)
△同 歩
▲同 飛 △3二金
▲2八飛 △6二銀(第5図)
攻めの理想形のひとつが駒得にあることはすでに述べた通り。また、敵陣に飛車を成り込んで竜や馬を作るのもまた理想的な展開です。
これらの構想を実現するのが途中図の▲2四歩でした。歩をぶつけて交換すること(=歩交換と呼ぶ)によって①飛車の利きが敵陣に直射する、②歩が手持ちになるなどのメリットがあります。後手の△3二金は▲2三飛成を防ぐ策。
しばらく進んだ第5図では先手にチャンスが到来しているのですが気づくでしょうか。
【第5図からの指し手】
▲2四歩 △4二銀
▲2三歩成 △同金
▲同飛成 (第6図)
先手は金を取りつつ竜を作ることができました。ここでの注目ポイントは▲2四歩(途中図)という一手。
次にと金を作る手がわかっていても、後手には適当な受けの手段がありません。▲2三歩と打って直接角を狙いにいきたくなる気持ちはやまやまですが、このように一手控えて次に厳しい歩成りを残すのが垂れ歩(たれふ)と呼ばれる基本手筋で局勢は一気に先手優勢に転じました。
飛車や角を大きく動かすのではなく、歩のような安い駒を使って相手の高い駒(角など)を取るのが効果的な攻めということがわかりました。
話がすこし前後しますが、駒の損得の基本的な計算方法についても補足します。商品に値段がついているように駒はそれぞれに価値があり、それは歩が最も低く、飛が最も高いとされています(玉は飛よりも高いが除外)。その価値を表す絶対的な基準はないのですが、筆者は以下のようなポイントを付けて推奨しています。
歩 |
香 |
桂 |
銀 |
金 |
角 |
飛 |
玉 |
1 |
2 |
3 |
4 |
5 |
6 |
7 |
∞ |
単位:ポイント
このように考えると例えば「飛車を取られて角を取った→7-6=1ポイントの損」「歩を取られて飛をもらった→7―1=6ポイントの得」といった要領で簡単に駒の損得を計算することができるようになります。
余裕が出てきたらこのように駒の損得計算にも気を配ってあげるとよいでしょう。
■まとめ
今回ですべての駒の動きをマスターしました。それぞれの駒の動き方に応じた使い方がありますが、実戦では金銀桂といった小駒が双方の守備力を高めるため一気に敵陣を攻略することは難しくなっています。
・飛や角を縦横に動かすだけでは勝てない
・歩などの小駒を使って相手の大駒を取り、駒得に持ち込むことで戦局を有利に運ぶ
・垂れ歩の手筋を覚えよう
・駒の損得計算について
銀の使い方については次回説明することとします。
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。