将棋を学ぼう(5)

2025-06-01更新
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監修
北尾まどか
日本将棋連盟 女流棋士二段 / 株式会社ねこまど 代表取締役
「将棋をもっと楽しく 親しみやすく 世界へ」をテーマに2010年に株式会社ねこまどを設立。将棋教室や将棋イベントを開催している。 こどもや初心者に将棋を教えるための教材としてして開発した「どうぶつしょうぎ」で、園や学校・学童などの教育機関にて普及活動を行っている。

 将棋で勝つためには駒の動かし方などのルールだけでなく、攻めの駒と守りの駒をバランスよく配備して戦略的に使っていく考え方が必要となる。今回は平手戦の実戦を例にとって効果的な序盤の指し方を導入しつつ、より高度な対局を見ていこう。

■この項で学ぶこと

定跡/戦型 棒銀 カニ囲い 合わせの歩 合わせる/ぶつける 相掛かり/相居飛車 形勢判断

■定跡のはじまり

 すべての駒の動かし方を身につけた皆さんは、どのように駒を進めれば効果的に戦局を有利に進められるか、どう守れば負けないかといった戦術面に興味が出てきたのではないでしょうか。前回紹介した駒の損得の考え方は非常に重要な概念で、突き詰めれば将棋の勝敗の半分以上をこの損得が占めていると言っても過言ではないでしょう。なにせ、兵力が少なければ戦争で勝つことはできませんからね。

 それではさっそく平手戦の実例を見てみましょう。

【初手からの指し手】

 ▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩(第1図)

【第1図は△8五歩まで】

 ともに飛車先の歩を突き合いました。図を見るとこのまま攻めていくのが自然ですが、どのような結末になるしょうか。なお両者が飛車をもとの位置で使う戦型(=双方の戦法の組み合わせ)を相居飛車(あいいびしゃ)と呼びます。

【第1図からの指し手①】

▲2四歩 △8六歩 ▲2三歩成 △8七歩成

▲2二と △8八と ▲3一と △7九と(第2図)

【第2図は△7九とまで】

 勢いよく攻め駒が突進していきます。おたがいに持ち駒は角銀歩と、駒の損得(=駒割り)の面では互角ですね。

【第2図からの指し手】

▲4一と (第3図)

【第3図は▲4一とまで】

 さっそく王手がかかりました。後手としては△4一同玉と取るくらいですが、先手はそこで▲2一飛成と桂を取ってもよし、▲7九金と手を戻して(手を戻す=攻めていた局面で一転して守る)もよしです。この攻め合いは先手に利があったようです。

【再掲第1図は△8五歩まで】

【第1図からの指し手②】

▲2四歩 △同歩 ▲同飛 △8六歩

▲同歩 △8七歩 (第4図)

【第4図は△8七歩まで】

 一直線に攻め合うと先手有利ということがわかり、後手は▲2四歩のときに△同歩と取ることにしました。このように相手の狙いが実現しないように手を変えることを変化すると言います。

 しばらく進んだ第4図では後手のほうが角を取ることに成功しています。厳密にはここで▲2三歩と打てば先手も角を取り返すことができます。形勢としては互角に近いのですが、突き詰めれば先に角を取ることができる後手がわずかに指しやすい(≒有利)とされています。

 先に攻めれば良いというような単純なロジックが成り立たないところに将棋の奥深さを感じますね。

【再掲第1図は△8五歩まで】

【第1図からの指し手③】

▲7八金 (第5図)

【第5図は▲7八金まで】

 今度は先手が変化する番です。攻めたい気持ちをグッとこらえて▲7八金と角頭を守りました。平手戦において角頭というのは非常に大きな弱点で、作戦によっては早めに角を交換することによってその弱点を消してしまおうという指し方も可能です(その場合、相手の弱点まで減るのが考えもの)。

 第5図から△8六歩▲同歩△同飛には▲2四歩△同歩▲2三歩があるので、後手もこの攻めはせずに△3二金(第6図)と上がるのが本手(本筋・正解とされる手)です。

【第6図は△3二金まで】

 こうして双方が最善手を指していくと、局面のバランスが取れた手順が完成していきます。このような手順の総体を定跡(じょうせき)と呼びます。定跡には作戦レベルのものから終盤の入り口まで体系化されたようなさまざまな長さのものがありますが、これを勉強・理解することで自然と棋力も上がっていくでしょう。今回紹介したこの形は相掛かり(あいがかり)という名前の定跡ですので興味が出てきた方は書籍やネットで調べてみてください。

 今回はこの第6図からの攻め方を紹介します。すこし長くなりますがよろしくお付き合いください。

■いよいよ始まる棒銀!

【第6図からの指し手】

▲2四歩 △同歩 ▲同飛 △2三歩

▲2八飛 △8六歩 ▲同歩 △同飛

▲8七歩 △8二飛 (第7図)

【第7図は△8二飛まで】

 おたがいに飛車先の歩を切りました(=交換しました)。ここから先手は棒銀(ぼうぎん)と呼ばれる攻めを発動させます。棒銀はズバリ右の銀を飛車の前にスルスルと前進させて相手の角頭の弱点を狙うのが基本方針。アマチュアからプロまで広く使われる作戦なんですよ。

【第7図からの指し手】

▲3八銀 △6二銀 ▲2七銀 △4一玉

▲2六銀 △5二金 ▲2五銀 △4二銀(第8図)

【第8図は△4二銀まで】

 第8図での後手の囲い(玉の守り方)をカニ囲いと言います。二枚の金が玉から生えたカニの爪のように見えるでしょうか。

 さて先手はここからどう攻め続けるか。自然な指し手としては▲2四銀と突進を続ける手ですが、これには△同歩と取られてしまい失敗です。続いて▲2四同飛と取り返すことはできますが、銀と歩の交換が大きな駒損なのは前項でお伝えした通りです。

【第8図からの指し手】

▲2四歩 △同歩 ▲同銀 △2三歩(第9図)

【第9図は△2三歩まで】

 先手は▲2四歩と相手の歩に歩をくっつけて打つことで銀を前進させました。持ち駒を打って相手の同種の駒と直面させることを合わせると言い、今回は合わせの歩の手筋を使ったことになります。ちなみに盤上の駒を相手の同種の駒に直面させることはぶつけると言います。細かいですが微妙なニュアンスの違いがあります。

 さて第9図で先手はどのように攻め続けるのが良いでしょうか。個人的にはここから▲3五銀や▲1五銀と銀を逃げてしまう方が非常に多いように見受けられますが、正解はそれとは別の手です。

【第9図からの指し手】

 ▲2三同銀成 △同金 ▲同飛成 (第10図)

【第10図は▲2三同飛成まで】

 第10図の状況を評価してみましょう。駒割りは▲金△銀の交換で先手の1点の得。1点の得はさほど大きくないのですが、今回はそれ以上に先手が竜を作っていることが見逃せませんね。ともなって後手玉は非常に不安定な状況になっています。総合的に見て先手優勢で、このような形勢判断(どちらが有利か考えること)は熟達者同士の対局では非常に重要になってきます。

 たとえば第10図では2二角が当たりになっている(狙われて次に取られそうな状況)のですが、△3一玉(参考1図)と寄った局面は先手に大きなチャンスが訪れています。すこし考えてみましょう。

【参考1図は△3一玉まで】

 どうでしょうか。

 正解は▲3二金!(参考2図)と打つ手で、これで後手玉は頭金の詰みになりました。頭金は意外と応用範囲が広いんですね。

【参考2図は▲3二金まで】

 ここまでの流れを振り返りましょう。まずは①飛車先の歩を伸ばす、続いて②飛車先の歩を交換する、さらに③右の銀を繰り出したのち④合わせの歩からの数の攻めで飛車先を突破。場合によっては頭金での詰みも視野に入れます。

 上図でいきなり▲2三飛成と飛び込むのは△同金と取られて駒損。2三の地点の勢力が▲飛―△金で均衡しているのがキモで、このバランスを崩すために右銀の協力を仰いだという格好です。角が居座っている後手はなかなか2三の地点に対して勢力を足すことができないんですね。

 最後に今回の棒銀の成功例を棋譜の形で残しますので復習にお役立てください。

【初手からの指し手】

▲2六歩    △8四歩    ▲2五歩    △8五歩

▲7八金    △3二金    ▲2四歩    △同 歩

▲同 飛    △2三歩    ▲2八飛    △8六歩

▲同 歩    △同 飛    ▲8七歩    △8二飛

▲3八銀    △6二銀    ▲2七銀    △4一玉

▲2六銀    △5二金    ▲2五銀    △4二銀

▲2四歩    △同 歩    ▲同 銀    △2三歩

▲同銀成    △同 金    ▲同飛成    △3一玉

▲3二金 まで33手で先手勝ち

 

■まとめ

 ・双方が最善を尽くした手順の応酬を定跡と呼ぶ

 ・双方が飛車を元の筋で使う戦型を相居飛車と呼ぶ

 ・守りをせずに飛車先の歩を伸ばしていくだけの指し方では先に攻めたはずの先手が不利になる

 ・棒銀は飛車と銀の協力で相手の角頭の弱点を狙う戦法で、敵陣に竜ができれば成功

 ・合わせの歩の手筋や頭金といった手筋で優勢を確立

執筆者 

水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)

日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。

ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。

 

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