将棋を学ぼう(6)
これまでに棒銀や相掛かりといった相居飛車の定跡を学んできた。今回は四間飛車という戦法を例にとって振り飛車における戦い方を見ていこう。
■この項で学ぶこと
四間飛車(三間飛車・中飛車・向かい飛車) 美濃囲い
あいさつ 急戦/持久戦 抑え込まれる/さばく
素抜く 戦いの起こった筋に飛車を回る
■定跡のはじまり
前回学んだ棒銀は将棋における基本の攻め方の一つで、飛車と銀の協力により相手の角頭という弱点を突破しようという狙いを持っていました。また、相居飛車においては一方の飛車が他方の囲い(前回でいえばカニ囲い)を直撃する形で攻めることができたので攻めがうまく行った場合の破壊力はとても大きくなります。
皆さんのなかにはそのような攻めを受けて立つのは自信がない、もうすこし守備に重きを置いて指したいという方もいらっしゃると思います。そんな方のために四間飛車(しけんびしゃ)定跡を例にとって振り飛車の戦い方をご紹介しましょう。
さっそく初手から進めていきます。
【初手からの指し手】
▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩
▲6八飛(第1図)
【第1図は▲6八飛まで】
最初の数手でさっそく違いが現れました。初手に▲7六歩と角道を開け、さらに▲6六歩と空いた角道を閉じる。そして飛車を大きく活用して6筋に持ってきました。このように、序盤早々に飛車を5~8筋に持ってくる作戦全般を振り飛車(ふりびしゃ)とよびます。今回は左から4番目の筋(6筋)に飛車が来るのでこれを四間飛車と呼びます。飛車が7筋に来れば三間飛車(さんけんびしゃ、参考1図)、また5筋に来れば中飛車(なかびしゃ、参考2図)という名前になります。
【参考1図は▲7八飛まで】
【参考2図は▲5八飛まで】
なお飛車を8筋に振る作戦は二間飛車とは呼ばず、これは向かい飛車(むかいびしゃ、参考3図)という名称になります。
【参考3図は▲8八飛まで】
さて話を四間飛車に戻します。四間飛車の基本的な考え方は6筋一帯の左辺から攻めていくことですが、そのまえに大切なことがあるので見てみましょう。
【第1図からの指し手】
△6二銀 ▲4八玉 △4二玉
▲3八玉 △3二玉 ▲2八玉 (第2図)
【第2図は▲2八玉まで】
このように、玉を右に持っていって戦いの起こる場所から遠ざけておくのが振り飛車の戦い方のコツ。自陣左方が攻めに関するエリア、右方が守りに関するエリアとなります。カニ囲いは使えませんが、このあと美濃囲い(みのがこい)という堅い囲いに組んでいきます。
【第2図からの指し手】
△5二金右 ▲3八銀 △5四歩
▲3八銀 (第3図)
【第3図は▲3八銀まで】
第3図をご覧ください。先手玉を守るこの形が美濃囲いと呼ばれ、金銀3枚を使ったこの形はとくに本美濃囲いという名でも呼ばれます(5八金がいない形は片美濃囲いという)。堅陣の守備力を生かして、守りを考えずに戦えるのが振り飛車の大きな魅力ですね。
【第3図からの指し手】
△1四歩 ▲1六歩 △8五歩 (第4図)
△1四歩と1筋の端歩を突かれたときは▲1六歩と返しておくのが良いでしょう。1七の地点は将来玉が左辺から攻められたときに逃げ出す空間の役目を果たすことがあり、終盤で生きてきます。端の歩を伸ばされたときに同様に歩を突いて応じることを「あいさつする」と表現します。あいさつするか迷った場合はしておいて悪くないでしょう。
さて第3図。いま△8五歩と飛車先の歩を伸ばされたところですが、ここでは振り飛車党必修の一手があります。
【第4図からの指し手】
▲7七角 (第5図)
【第5図は▲7七角まで】
居飛車側の飛車先の歩が5段目まで伸びてきたとき、この▲7七角という手もぜひ覚えておいていただきたい一手。これを怠って▲7八銀などとすると△8六歩▲同歩△同飛▲8七歩△8二飛(参考4図)となることが予想されます。
【参考4図は△8二飛まで】
一見するとなんということもない図のようですが、ここから左銀を使おうと▲6七銀とするとすぐさま△8七飛成!(参考5図)と自陣に竜が侵入してきます。これは失敗ですね。駒得することと竜を作ることが将棋の序盤における成功条件であることに変わりはありません。
【参考5図は△8七飛成まで】
【第5図からの指し手】
△7四歩 ▲7八銀 △7三銀
▲6七銀 (第6図)
【第6図は▲6七銀まで】
手順が長くなりましたが、ここまでが四間飛車の基本図です。居飛車側の作戦はおもに早く攻めてくる急戦とじっくり玉を固めてくる持久戦にわかれますが、いずれの場合にも先手陣はこの形でOKです。
お手元に盤駒がある方はぜひこの形が手になじむまで並べて覚えてみましょう。四間飛車の魅力はこの「相手がどの形でも自分のスタイルを貫くことができる」ことにもあると言えそうです。
【第6図からの指し手】
△8四銀 ▲9六歩 △7五歩
(第7図)
【第7図は△7五歩まで】
ここからは戦い方の一例。後手が棒銀の作戦に出てきたとします。なお後手の囲いは舟囲い(ふながこい)というもの。いまぶつかったこの歩は取るべきでしょうか。
【第7図からの指し手①】
▲7五同歩 △同銀 ▲7六歩 △8六歩
▲7五歩 △8七歩成 ▲9五角 △9四歩
(第8図)
【第8図は△9四歩まで】
「ぶつかった歩は取る」が将棋の基本ではありますが、この場合は振り飛車の失敗になります。しばらく進んだ第8図は先手の角が捕まっており、▲7三銀にも△9二飛とかわされ手になりません。
こうなると▲銀△角という駒損が確定してしまって失敗なことが明らかです。なお途中、△8六歩に対して▲同歩には△同銀(参考5図)でこれも突破されています。
【参考5図は△8六同銀まで】
参考5図からは▲8八角△8七銀成▲7九角△8八歩といった手順が想定され、これは先手の飛車と角がいずれも使えないまま棒銀にいじめられてしまった格好。このような展開は「抑え込まれる」といい、振り飛車を指すうえで典型的な失敗例となります。
抑え込まれの展開を避けるために振り飛車側は大駒(飛車と角)の働きを抑える歩を盤上から消すのがコツ。その手順を見ていきましょう。
【第7図からの指し手②】
▲7八飛 △7六歩 ▲同銀 △7二飛
▲6五歩(第9図)
【第9図は▲6五歩まで】
振り飛車においてはぶつかった歩は取らず、「戦いが起こった筋(歩がぶつかった筋)に飛車が回る」のがポイント。飛車の前の歩はむしろいないほうが大駒を使いやすいのですね。
第9図の▲6五歩は今度は角を大きく使う(=さばく)ための手筋で、これで四間飛車側は棒銀に抑え込まれる展開を避けることができます。
一見すると△7六飛で銀をタダ取りされてしまうようですが、それには▲2二角成!(王手)△同銀▲7六飛参考6図)と飛車を取り返して成功。▲飛△銀の飛車銀交換で駒得できました。このように、向かい合った大駒同士の間の駒をうまくどかせて取ってしまう手筋を「素抜く」といいます。素抜きはさばきの成功例のひとつですね。
【参考6図は▲7六飛まで】
最後に今回の棒銀の成功例を棋譜の形で残しますので復習にお役立てください。
【初手からの指し手】
▲7六歩 △3四歩 ▲6六歩 △8四歩
▲6八飛 △6二銀 ▲4八玉 △4二玉
▲3八玉 △3二玉 ▲2八玉 △1四歩
▲1六歩 △5四歩 ▲3八銀 △5二金右
▲5八金左 △8五歩 ▲7七角 △7四歩
▲7八銀 △7三銀 ▲6七銀 △8四銀
▲9六歩 △7五歩 ▲7八飛 △7六歩
▲同 銀 △7二飛 ▲6五歩 △7六飛
▲2二角成 △同 銀 ▲7六飛
■まとめ
・飛車を5~8筋に回って戦う戦法を振り飛車という
・振り飛車は戦いが起こる前に美濃囲いに組み玉を安全にするのがコツ
・端歩は受ける(あいさつする)
・棒銀に大駒を抑え込まれる展開を避ける
・(対棒銀)ぶつかった歩は取らず、歩のぶつかった筋に飛車を回る
・素抜きの手筋などを使って大駒をさばこう
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。