将棋の戦法を学ぼう(11)相早繰り銀【基本編】
今回は角換わり相早繰り銀の攻防について学んでいこう。おたがいが早繰り銀で攻めるというシンプルな構図ながら、現在でもタイトル戦の大舞台に登場するなど研究の最先端を行く戦場だ。
■プロにも人気の最先端戦型
早繰り銀は4筋に繰り出した銀を使って銀交換を目指す作戦です。腰掛け銀だとジリジリとした間合いの計り合いが面倒と思われる方も、棒銀に似た要領で爽快に攻めていける早繰り銀は好きという方も多いでしょう。
今回はプロの対局でも出現することの多い相早繰り銀を紹介しますが、基本編として先手がすぐに攻めていっても簡単には有利にならないということを説明しようと思います。そのことを踏まえて次項では【応用編】として、どちらが先攻するかの応用的な駆け引きについて取り上げます。
【初手からの指し手】
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7六歩 △3二金 ▲7七角 △3四歩
▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲7八金 △3三銀 ▲4八銀 △6二銀(第1図)
【第1図は△6二銀まで】
ここまでは角換わりの基本図。第1図から▲4六歩と突けば腰掛け銀、▲3六歩と突けば早繰り銀が予想される展開です。なお棒銀にしたい場合は直前の▲4八銀に代えて▲3八銀として、次に▲2七銀と上がりましょう。
【第1図からの指し手】
▲3六歩 △7四歩 ▲3七銀 △7三銀
▲4六銀 △6四銀 ▲1六歩 △9四歩(第2図)
【第2図は△9四歩まで】
それぞれ銀を4筋と6筋に繰り出し早くも一触即発の雰囲気。▲1六歩と突く前、すぐにでも▲3五歩と突っかけたくなりますが、それは△同歩▲同銀▲2四歩△同歩▲同銀△同銀▲同飛△1五角(参考図)の王手飛車取りで失敗します。
【参考図は△1五角まで】
銀交換したい気持ちをグッとこらえて▲1六歩と突いておくのが大人の余裕。この手に代えては▲6八玉と上がって王手飛車のラインを回避するのもOKですが、こと相早繰り銀に関しては相手の攻めの銀に近づくので善悪は微妙なところです。
【第2図からの指し手】
▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀 (第3図)
【第3図は▲3五同銀まで】
いよいよ早繰り銀の攻めがスタート。ここから分岐が多くなるので順を追って説明していきます。第3図で△3四歩なら▲2四歩△同歩▲同銀から銀交換して先手不満なし(参考図)。
【参考図は▲2八飛まで】
参考図からの進展例としては①△7五歩▲同歩△同銀▲4六角△6四銀▲2四歩△同歩▲同角(王手)△5二玉▲5一角成!や、②△7五歩▲同歩△同銀▲4六角△6四角▲5五銀△7三角▲7四歩△8四角▲5四銀!(飛車取り)など。角と銀が大きく働くダイナミックな展開が爽快ですね。
いずれにしても、一方的に攻めの銀を銀交換した先手側に攻撃の幅が広がっていることがわかると思います。
また、▲3五歩△同歩▲同銀の瞬間に△7五歩▲同歩△同銀と同様の攻めを繰り出すのは有力。以下は▲4六角△6四角▲同角△同銀で後手の銀を引き戻したあと、▲2四歩△同歩▲3四歩△4四銀▲2四銀(参考図)で次の▲3三銀成を狙ってどうかという展開。この変化は先手後手どちらを持っても有力で、今後研究が進むことが予想されます。
【参考図は▲2四銀まで】
さて本譜、後手は歩の手筋を使って反発してきます。
【第3図からの指し手】
△8六歩 ▲同 歩 △8五歩
(第4図)
【第4図は△8五歩まで】
3筋で手にした一歩を使って継ぎ歩攻めをするのが定跡化された反撃。▲8五同歩と応じるのは△同飛(参考図)が銀桂両取りの十字飛車となって先手失敗です。
【参考図は△8五同飛まで】
先手はやむを得ず攻め合いに転じることになりますが、第4図で▲3四歩は有力な手段。ただし今回は▲2四歩からシンプルに銀交換に飛び込む変化を紹介しようと思います。
【第4図からの指し手】
▲2四歩 △同 歩 ▲同 銀 △同 銀
▲同 飛 △2三歩 ▲2八飛 △8六歩 (第5図)
【第5図は△8六歩まで】
ともに意地の張り合いが続いて迎えた第5図。次の歩成りを受けるために▲8八歩を打つのもありますが、先手にほかの反発の手段はないでしょうか?
ヒントは角を使うためのタタキの歩の手筋。
【第5図からの指し手】
▲8三歩 △同 飛 ▲8四歩 △同 飛
▲6六角 △8二飛 ▲1一角成 (第6図)
【第6図は▲1一角成まで】
8筋に歩が立つ瞬間を生かして▲8三歩と飛車頭をタタくのがこの戦型に頻出する反撃の手筋。好点に角を打って、香を取りつつ馬を作ることに成功しました。
第6図では当然△8七歩成が気になるところですが、それには▲同金△同飛成▲8八香(参考図)と、いま取ったばかりの香を使って竜を捕獲する手が用意されています。この変化は2八の飛車の守備力が最大限に生かされていますね。
【参考図は▲8八香まで】
歩が成れないようでは困ったようですが、ここから後手はうまい手順で攻めの火種を作っていきます。
【第6図からの指し手】
△3七歩 ▲8八歩 △3八銀
▲同 金 △同歩成 ▲同 飛 △3七歩(第7図)
【第7図は△3七歩まで】
タダのところに△3七歩と置いておくのが垂れ歩の手筋。▲同桂には△3六歩があります。▲3九歩(参考図)と受ける手が浮かぶかもしれませんが、この土下座の歩が好手になることはまずありません。
【参考図は▲3九歩まで】
具体的には参考図から①△3八銀▲同歩△8七歩成▲同金△同飛成▲8八香のときに△7八竜と逃げられてしまう、②単に△3三桂と跳ねられても▲3四歩の桂頭攻めの脅威がないなどですね。
相早繰り銀においては特に、まじめに相手の攻めに対応していると時代に取り残されてしまうことが多いので注意が必要です。
ここからは後手の一人舞台となります。
【第7図からの指し手】
▲6八飛 △3八角 ▲3七桂 △4七角成
▲4八銀 △3八馬 ▲4九銀 △2八馬
▲3八歩 △3三桂 ▲3六香 △4二金打
▲2二歩 △1九馬 ▲2一歩成 △1八馬
▲4七銀 △4四香 (第8図)
【第8図は△4四香まで】
一気に進めましたが、基本的に先手は飛車が自陣に隠居しており苦しいということが伝わってくるでしょう。
実戦として見ればまだ難しいところもありそうですが、基本的には後手ペースの戦いです。
今回紹介した相早繰り銀の定跡ですが、ここまで見てきたように必ずしも先攻した側が有利になるとは限らないというのが面白いところ。とくに歩を使った細かい手筋や、角を使ったダイナミックな活用などが特徴になります。
実戦では▲3五歩と仕掛ける前に玉の位置を調整したり歩を突いて相手の銀を牽制したりという駆け引きが生じることになりますが、そうした話はまた次項で。
■まとめ
・角換わり相早繰り銀はアマチュアからプロまで幅広く人気の戦型
・先攻した側がすぐ有利になるとは限らない
・後手は十字飛車を狙う合わせの歩が常とうの反撃手段
・細かな歩の手筋とダイナミックな角の活用で局面をリードしよう
■参考棋譜
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7六歩 △3二金 ▲7七角 △3四歩
▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲7八金 △3三銀 ▲4八銀 △6二銀
▲3六歩 △7四歩 ▲3七銀 △7三銀
▲4六銀 △6四銀 ▲1六歩 △9四歩
▲3五歩 △同 歩 ▲同 銀 △8六歩
▲同 歩 △8五歩 ▲2四歩 △同 歩
▲同 銀 △同 銀 ▲同 飛 △2三歩
▲2八飛 △8六歩 ▲8三歩 △同 飛
▲8四歩 △同 飛 ▲6六角 △8二飛
▲1一角成 △3七歩 ▲8八歩 △3八銀
▲同 金 △同歩成 ▲同 飛 △3七歩
▲6八飛 △3八角 ▲3七桂 △4七角成
▲4八銀 △3八馬 ▲4九銀 △2八馬
▲3八歩 △3三桂 ▲3六香 △4二金打
▲2二歩 △1九馬 ▲2一歩成 △1八馬
▲4七銀 △4四香
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。
