将棋の戦法を学ぼう(12) 相早繰り銀【応用編】

2025-11-25更新
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監修
北尾まどか
日本将棋連盟 女流棋士二段 / 株式会社ねこまど 代表取締役
「将棋をもっと楽しく 親しみやすく 世界へ」をテーマに2010年に株式会社ねこまどを設立。将棋教室や将棋イベントを開催している。 こどもや初心者に将棋を教えるための教材としてして開発した「どうぶつしょうぎ」で、園や学校・学童などの教育機関にて普及活動を行っている。

 引き続き角換わり相早繰り銀の戦いを見ていこう。先後同型から、先攻すればよいわけではないとわかった先手は仕掛けのタイミングを模索していくことになりそうだ。

■相早繰り銀の実際

 前回の【基本編】ではおたがいが早繰り銀に組んだあと、先手が早速攻めていく攻防を見ていきました。結論としては、先後同型から先に攻めたからといって必ずしも優勢になるとは限らないということがわかりましたね。

 そこで今回は、先後同型からいったんタイミングを計る工夫について考えてみます。このあたりの攻防は最近のプロの対局でも類似の形が出ており、研究の最先端のひとつということができそうです。

【初手からの指し手】

▲2六歩    △8四歩    ▲2五歩    △8五歩

▲7六歩    △3二金    ▲7七角    △3四歩

▲8八銀    △7七角成  ▲同 銀    △2二銀

▲7八金    △3三銀    ▲4八銀    △6二銀

▲3六歩    △7四歩    ▲3七銀    △7三銀

▲4六銀    △6四銀    ▲1六歩    △9四歩【第1図】

【第1図は△9四歩まで】

 第1図までの駒組みについては特に言うことはないでしょう。ここからすぐ▲3五歩△同歩▲同銀には△8六歩の継ぎ歩攻めがやっかいだったため、先手はここで工夫を見せます。

【第1図からの指し手】

▲6六歩  (第2図)

【第2図は▲6六歩まで】

 ▲6六歩と突いたのが深謀遠慮の一手。直接の意味としては、相手の6四銀にプレッシャーをかけつつ将来△5五角と打たれる飛車香両取りの筋を緩和しています。

 第2図でもし後手が△9五歩などと手待ちしてくればそれはチャンス。すかさず▲3五歩△同歩▲同銀と先攻してしまいましょう。対しては△8六歩からの継ぎ歩攻めが定跡化された反撃ですが、これを▲8六同銀(参考図)と取ることができるのが▲6六歩の効果です。

【参考図は▲8六同銀まで】

 こうなると後手は△5五角が両取りにならず、また8筋での銀交換もできないので先手満足の展開となります。▲6六歩に対しては後手も急いで攻め込んでくることになりそうですね。

【第2図からの指し手】

        △7五歩    ▲同 歩    △同 銀

▲2四歩    △同 歩    ▲2五歩    (第3図)

【第3図は▲2五歩まで】

 【基本編】から先後を入れ替えたような形になりました。飛車先の継ぎ歩攻めが反撃の要なのはご存じの通りで、△2五同歩には▲同飛の十字飛車で一丁アガりですね。

 また、第3図から△8六歩▲同歩△同銀と銀交換を目指してくるのも▲同銀△同飛▲8七歩△8二飛と収めておきます。続く▲2四歩の取り込みに△2六歩(参考図)が手筋というのが前回学んだことでしたが…

【参考図は△2六歩まで】

 参考図から▲2六同飛が好手。好点の角打ちになるはずだった△4四角には▲3五歩△6六角▲2三歩成で問題ありません。このように、▲6六歩には△4四角の筋も緩和することで後手からの銀交換も甘くする効果があったのですね。将棋は奥深いです。

 銀交換しても効果が薄い後手としては別の攻め方を模索する必要がありそうです。

【第3図からの指し手】

        △7六歩 ▲6八銀    △6六銀    (第4図)

【第4図は△6六銀まで】

 △7六歩と拠点を作ったあと、後手は目障りだった歩を取ることにしました。この手に代えては△8六歩▲同歩△同銀と8筋に猪突猛進する手も考えられますが、以下▲2四歩△2二歩▲8三歩△同飛▲7四角(参考図)がこの戦型に頻出する受けの手筋。

【参考図は▲7四角まで】

 飛車をタテに逃げると▲6三角成があるので△7三飛はやむをえませんが、冷静に▲5六角と引いておけば8筋突破の狙いはいったん緩和できています。

【第4図からの指し手】

▲2四歩    △2二歩 ▲2五飛 △4四銀   

▲6五飛    (第5図)

【第5図は▲6五飛まで】

 高い位置に繰り出してきた後手の右銀に対しては、飛車を浮いて銀ばさみを見せるのが定跡化された対応。後手としても△4四銀はやむを得ないところで、銀を助けるためだけに△8四角などと投入するのでは元気が出ません。

 ただし△4四銀はなかなかな応手で、先手も警戒が必要。重く▲6七歩と打つのは△3三桂▲6五飛△7七銀成▲同桂△同歩成▲同金△7四角(参考図)といった要領で馬作りを狙われたときに▲6七歩がいないほうがいい駒になっています(将来▲6九歩の底歩がないなど)。

 このあたりは一手一手の損得計算が細かいので、もし興味のある方は定跡書などで詳しく調べてみてください。

【参考図は△7四角まで】

【第5図からの指し手】

     △7七銀成 ▲同 桂    △同歩成   

▲同 金    △7四角 (第6図)

【第6図は△7四角まで】

 これ以降の展開はあくまで一例ということで参考程度に読んでいただければ十分です。結局△7四角と打たれるのでは直前の参考図と変わらず失敗なのではと思われるかもしれませんが、▲6七歩△3三桂の交換がないだけで思いのほか形勢は入れ替わるものなのです。

【第6図からの指し手】

▲6六飛    △4七角成  ▲3八銀    △3六馬

▲4五歩    △5四桂    ▲3七銀引  △同 馬

▲同 桂    △6六桂    ▲4四歩    △8九飛

▲6九歩 (第7図)

【第7図は▲6九歩まで】

 長手数進めましたが、最後の▲6九歩が気持ちよい底歩。▲6七歩と打たなかった効果がここで出ました。第7図は持ち駒が豊富な先手が優勢といってよいでしょう。後手は△9九飛成と香を取るくらいですが、先手からは▲4三歩成や▲4五桂、また▲6六金や▲5五角など攻めの手には困りませんし、受けに関しても6六桂を取ったあと▲5八銀と埋めるような手がしばらくは自玉は安泰です。

 第7図までの手順中、▲4五歩と打ったのが先手の手筋で、△同銀と取る手には▲3七銀引△3五馬▲2三歩成△同金▲6三飛成(参考図)の成り込みが用意されています。

【参考図は▲6三飛成まで】

 飛車成りを急がず▲2三歩成を入れるものためになる手筋で、△同歩なら▲5五角の飛香両取りがありますね。このように、角換わり早繰り銀の攻防は歩の手筋をはじめとした、ためになる手筋が満載なのが魅力です。

 前回と今回で見てきたように、角換わり相早繰り銀の攻防はかならずしも先攻した側が有利になるとは限らないことがわかりました。今回は先手が有利になる手順を紹介しましたが、実際には複雑な手筋の組み合わせのなかで後手が有利になる可能性も多分にあります。

 「この形は先手/後手優勢の定跡だ」などと結論にとらわれ過ぎず、いろいろな手筋を試す気持ちで実戦経験を重ねていってもらえればと思います。

■まとめ

・仕掛ける前の▲6六歩が趣深い手筋で、△5五角や△4四角の筋を緩和している

・後手から先攻されるのは気にしない、8筋からの飛車先突破の狙いには▲8三歩~▲7四角の手筋で対応しよう

・△6六銀と銀が進出してきたら▲2五飛~▲6五飛で取るのが形

・飛車を取られても居玉の自陣が安定している

■参考棋譜

▲2六歩    △8四歩    ▲2五歩    △8五歩

▲7六歩    △3二金    ▲7七角    △3四歩

▲8八銀    △7七角成  ▲同 銀    △2二銀

▲7八金    △3三銀    ▲4八銀    △6二銀

▲3六歩    △7四歩    ▲3七銀    △7三銀

▲4六銀    △6四銀    ▲1六歩    △9四歩

▲6六歩    △7五歩    ▲同 歩    △同 銀

▲2四歩    △同 歩    ▲2五歩    △7六歩

▲6八銀    △6六銀    ▲2四歩    △2二歩

▲2五飛    △4四銀    ▲6五飛    △7七銀成

▲同 桂    △同歩成    ▲同 金    △7四角

▲6六飛    △4七角成  ▲3八銀    △3六馬

▲4五歩    △5四桂    ▲3七銀引  △同 馬

▲同 桂    △6六桂    ▲4四歩    △8九飛

▲6九歩

執筆者 

水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)

日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。

ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。

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