将棋の戦法を学ぼう(4)
本講座の最初に棒銀での攻め方を勉強した。飛と銀の強力なコンビネーションで敵陣を突破していく戦法だが、これを角換わりの戦型で使うとどのようになるだろうか。勉強してみよう。
■この項で学ぶこと
角換わり棒銀の狙い 攻め駒と守り駒の交換
守り駒は盤上で働く 攻め駒は駒台でも働く
量的な得と質的な得 割り打ちの銀
■相掛かり棒銀との違いは?
前回学んだ角換わり腰掛け銀は角・銀・桂の協力によって攻めていく指し方でした。攻めの主役になることの多い飛がそれほど前面に出てこないという意味ではやや玄人向けではあるのですが、今回は基本に立ち返って飛+銀の棒銀戦法についてあらためて学んでみましょう。
【参考図は▲2五銀まで】
参考図を見ていただくとわかる通り、このシリーズの最初に出てきた棒銀は相手の角頭(2三の地点)を弱点と見て2筋突破を目指すものでした。今回は角換わりでこれを応用することになりますが、相掛かり棒銀と角換わり棒銀の違いを意識して見ていただければ幸いです。
さっそく初手から進めてみましょう。
【初手からの指し手】
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7六歩 △3二金 ▲7七角 △3四歩
▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
(第1図)
【第1図は△2二銀まで】
ここまでは前回の角換わり腰掛け銀と同じ。▲2四歩と突けない理由もおぼえているでしょうか?(ヒントは△3五角という一手)
【第1図からの指し手】
▲7八金 △3三銀 ▲3八銀 △6二銀
▲2七銀 △4二玉 ▲2六銀 (第2図)
【第2図は▲2六銀まで】
これで先手の作戦が明らかになりました。飛車の前に銀が出て行けば棒銀の始まりです。細かいところですが、右銀を動かすときに▲4八銀とすると銀が三段目に上がるときに▲3六歩という一手が必要になります(参考図)。このあと▲3七銀~▲4六銀というルートを取れば早繰り銀と呼ばれる戦法になるのですが、今回はいったんスルーさせていただきます。
【参考図は▲3六歩まで】
【第2図からの指し手】
△6四歩 ▲1五銀 △6三銀
▲6八玉 △5二金 ▲2四歩 △同 歩
▲同 銀 △同 銀 ▲同 飛 △2三歩
▲2八飛 (第3図)
【第3図は▲2八飛まで】
ここまでの手順で、先手は自らの右銀を後手の左銀と交換しました。相掛かりのときの棒銀と違って一気に敵陣をひとつぶしとはいきませんが、将棋のセオリーとしては「攻めの銀と守りの銀を交換した場合は攻めの銀を交換したほうが得」ということが知られています(近年はAI研究の発展によりこの結論も局面次第ということがわかってきていますが、あくまで基本理論としてはこの理解でかまいません)。
同じ銀と銀の交換なのにこうした差が生まれるのは、ひとえに「守りの銀は盤上、とくに玉のそばで働くから」という点に尽きますね。これに対して攻めの銀は盤上から駒台に移動することによっていつでも敵陣に打ち込める可能性が増える。この微妙な質的な得はかなり微妙なものなのですが、手順を追っていくと徐々に見えてくるでしょう。
なお手順中、△2三歩と飛を追われたときに▲3四飛と歩を取るのは疑問手。すぐさま△2七角(金取り)▲5八金△4五角成(参考図)と馬を作られ苦しくなってしまいます。
【参考図は△4五角成まで】
【第3図からの指し手】
△5四銀 ▲5八金 △7四歩
▲7九玉 △7三桂 ▲6六歩 △4四歩
▲6八金右△3一玉 ▲8八玉 △2二玉
▲4一銀 (第4図)
【第4図は▲4一銀まで】
ともに早い攻めはないので陣形整備に移ります。一見するとおだやかに駒組みを進めて序盤戦に戻ったかに見えますが、水面下では絶えず戦いが勃発する可能性を秘めています。一気に進めましたが、具体的にはたとえば△4四歩に対して▲7五歩(参考図)と攻める手は有力です。△同歩には▲7四歩があるのは2筋で歩交換をしておいたおかげ。また、▲7五歩に△8四飛なら▲9五角△8二飛▲7二銀△8二飛▲7三角成と飛を追いながら一気に後手陣を攻略できる可能性もあります(▲7五歩には△6三銀が最善の粘り)。これも角や銀を交換しておいたおかげですね。一般的に、盤上で働きの弱かった攻め駒は駒台に移動することで攻撃力が増加します(もともと盤上で敵の急所をにらんでいた駒は別)。
【参考図は▲7五歩まで】
このように、角換わりは双方の駒台に駒がたくさん載ることが多いため、歩の手筋をはじめとする手筋の宝庫になっています。
第5図の▲4一銀はこれまでにも出てきた割り打ちの銀の手筋。金銀の交換はそれ自体は大きな得ではないのですが、手順に後手の守りの金を盤上の外(駒台)に追いやれるのが大きいのですね。
手順中、たとえば△2二玉に代えて△4二金右とすれば割り打ちは生じないのでは?と思う方もいらっしゃるかもしれません。しかしそれには▲6一角(参考図)が絶好の打ち込み。①▲3四角成と②▲8三銀△6二飛▲7二角成の飛車いじめをにらんでこれも先手有利となります。
【参考図は▲6一角まで】
【第4図からの指し手】
△4二金右 ▲3二銀成△同 金
▲2四歩 △同 歩 ▲5一角 △6二銀
▲8三金 △5一銀 ▲8二金 (第5図)
【第5図は▲8二金まで】
第5図が今回の終着点です。最終的には飛車を手にした先手が実戦的にかなり勝ちやすいでしょう。先手有利と言ってかまいません。
そして初手から最後までかなりの手数となりましたので、今回の定跡は暗記するより指し手の流れを追っていただくだけで十分と思います。暗記する代わりに、「銀交換をする」→「再度駒組みに移る」→「敵陣のほころびを見つけて持ち駒を打ち込んでいく」という全体の流れを認識していただければと思います。
これまでに紹介してきた定跡の成功例と違って「銀と角を交換して駒得だから有利!」などという量的な得から「攻めの銀と守りの銀を交換したから敵の守りが弱体化した!」という質的な得に狙いが変化したとも言い換えることができそうです。
いくつか補足を加えておきましょう。
まず、後手からの反撃について。今回は先手の成功例を見るために先手が攻める展開を紹介しましたが、実戦では後手から無理矢理攻めてくる場合も考えられます。むろん、先手陣の方が囲いが堅いので悪い道理はないのですが、そのあたりは実戦は生き物ということでその都度考えることに。
たとえば△4四歩に代えて△6五歩(参考図)は有力な攻めで、後手も持ち駒が豊富なだけに対応を誤ると難しくなります(それも角換わりの楽しさですが)。
【参考図は△6五歩まで】
△6五歩には▲6四銀△6二金▲4六角と打ち、△7二銀を強要することで後手の攻撃力を落としておいて、一転して▲7五歩と桂頭攻めに争点をかえるのがよいでしょう。この辺りの対応は臨機応変に…!!
続いて序盤について。先手が▲2六銀と棒銀をチラ突かせた段階で後手は△1四歩(参考図)と銀出を防いでくる手も考えられます。実戦での頻出度の高いこの手に対しても対策があるのですが、紙幅の都合により回をあらためて説明させていただきます。
【参考図は△1四歩まで】
最後に後手の指し方について。第3図からの指し手の途中、▲5八金に対して後手は△7四歩から△7三桂と攻撃陣を拡充させましたが、発想の転換を図って柔軟な一手もありました。すこし考えてみましょう。
【途中図は▲5八金まで、後手番】
いかがでしょうか。
ここは△4四歩と突いて次に△4三銀と引く指し方が柔軟なアイデア。「守りの銀を失ったならば、攻め担当だった銀を守りにつければよい」という考え方ですね。実際この指し方も相当に有力なのでぜひ使ってみてください。
■まとめ
・角換わり棒銀では銀交換を目指す
・攻めの銀と守りの銀の交換は攻めの銀を交換した側が得
・銀交換した後は慌てず駒組みに移って構わない
・駒組みの中で敵陣にほころびを見つけたら持ち駒を打って攻略を目指す
・量的な得と質的な得という考え方を身につけよう
■参考棋譜
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7六歩 △3二金 ▲7七角 △3四歩
▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲7八金 △3三銀 ▲3八銀 △6二銀
▲2七銀 △4二玉 ▲2六銀 △6四歩
▲1五銀 △6三銀 ▲6八玉 △5二金
▲2四歩 △同 歩 ▲同 銀 △同 銀
▲同 飛 △2三歩 ▲2八飛 △5四銀
▲5八金 △7四歩 ▲7九玉 △7三桂
▲6六歩 △4四歩 ▲6八金右 △3一玉
▲8八玉 △2二玉 ▲4一銀 △4二金右
▲3二銀成 △同 金 ▲2四歩 △同 歩
▲5一角 △6二銀 ▲8三金 △5一銀
▲8二金
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。