将棋の戦法を学ぼう(8)角換わり右玉
今回は角換わり右玉の指し方を学んでいこう。「玉飛接近すべからず」の格言に反するかのごとく飛車のすぐそばに玉を囲う作戦だが、つかみどころを捕らえるのが難しいためマスターすれば白星を稼げるかもしれない。
■アマチュアに人気の戦法
右玉とはその名の通り、玉を盤上の右側に囲っていく作戦です。飛車が2筋にいるなかで3~4筋に囲うのはセオリーに反しているようですが(参考図)、角換わりをはじめとして矢倉や対振り飛車にいたるまで幅広い戦型で使うことができるのがその特長です。相手の戦法によらず使えるという意味では右四間飛車と並んで二大・早指し向き戦法と言えるでしょう。
【参考図は右玉】
なお右玉は基本的に居飛車の戦い方の一つです。先に飛車を左に振ってから玉を右に囲うのは振り飛車に分類されるので、わざわざ右玉とは呼びません。
【初手からの指し手】
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7六歩 △3二金 ▲7七角 △3四歩
▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲7八金 △3三銀 ▲4八銀 △6二銀 (第1図)
【第1図は△6二銀まで】
さて第1図までは角換わりの序盤戦の基本ともいえる手順。ねんのためおさらいしておくと、△2二銀に対して▲2四歩△同歩▲同飛と歩交換をするのは△3五角(参考図)で困るので注意してください。
【参考図は△3五角まで】
【第1図からの指し手】
▲4六歩 △6四歩 ▲4七銀 △6三銀
▲3六歩 △4二玉 ▲3七桂 △5二金
▲1六歩 △1四歩 ▲9六歩 △9四歩
▲5八金 (第2図)
【第2図は▲5八金まで】
おたがいに腰掛け銀に向けた駒組みを進めていますが、先手は▲6八玉の一手を指していないことが目を引きます。このあともちろん先手玉は▲4八玉~▲3八玉と移動することを考えているわけですね。
なお角換わり右玉は相手が棒銀や早繰り銀といった急戦系の作戦でも使うことができます(参考図)。この場合はあらかじめ相手の攻めの銀から玉を遠ざけておくという受けの意味合いが強くなります。
【参考図は▲4八玉まで】
【第2図からの指し手】
△5四銀 ▲2九飛 △7四歩
▲4八玉 △4四歩 ▲3八玉 △3一玉
▲5六歩 △7三桂 (第3図)
【第3図は△7三桂まで】
角換わり右玉の考え方は大きく2つにわけることができます。まずは①千日手歓迎で手待ちを繰り返す消極作戦、それから②左銀を活用して先攻を目指す積極作戦です。千日手が発生した際は先後を入れ替え指し直しになるルールが一般的なため、後手番を持った際は①の方針を取るのもよいでしょう。第3図からたとえば▲4八金と待ったとして、後手から仕掛けがあるかという点はプロの実戦でも焦点になったことがあるくらいの難しいテーマです。
しかし今回は右玉側が先手ということもあり、積極的に戦いを起こす指し方を紹介してみたいと思います。
【第3図からの指し手】
▲6六銀 (第4図)
【第4図は▲6六銀まで】
▲6六銀という一手は含みが多く、▲7五歩からの桂頭攻め、▲5五歩の位取り、▲5五銀のぶつけ、▲5七銀からの守備固めなどいろいろな手の可能性を秘めています。この手に代えては▲6六歩と突き、そのあと▲6八銀~▲6七銀(参考図)といった要領で陣形を整備する指し方も考えられるところ。しかし具体的な攻めという意味では▲6六銀のほうがわかりやすさもあり、おすすめです。
【参考図は▲6七銀まで】
また、第4図から△5五歩と銀を追ってきた場合は▲5七銀とは引かずに▲5五銀とぶつけてしまうのが面白い指し方。銀交換になった参考図は、△2二玉と入る手に▲4一銀を用意、また放っておいても▲7一銀のような筋を潜在的に用意して後手の駒組みに制約を与えることができます。
【参考図は▲5五同歩まで】
形勢はまだまだ互角ながら、先手陣は一段飛車のヨコ利きが働いて打ち込みがないのがよくわかるでしょう。次に▲5四歩△同歩▲6四角(王手桂取り)の狙いもあり、実戦的にはかなり先手が指しやすい展開と思います。
【第4図からの指し手】
△8六歩 ▲同 歩 △同 飛
▲7五歩 (第5図)
【第5図は▲7五歩まで】
△6五歩と突くのがうまく行かない後手は△8六歩から一歩交換を挑んできました。ここが右玉の腕の見せ所で、相手が動いてきたら返す力でカウンターというのが基本的な方針になります。
第5図の▲7五歩に代えておとなしく▲8七歩と収めるのは不満で、以下△8二飛▲5五銀△同銀▲同歩の展開は△6五角(参考図)くらいで面白くないでしょう。8筋の歩が交換できたのは後手にとって非常に大きく、参考図からは次に△3五歩▲同歩△3六歩の桂頭攻めだけでなく△7六角~△8七角成の飛車先突破もあって収拾がつきません。
「相手がポイントを上げてきて、自分が他の場所で加点できない場合は反発を考える」というのは右玉に限らず将棋における応用的な考え方のひとつです。すこし難しいかもしれませんが、上級を目指したい方はぜひこの思考法を意識してみてください。
▲7五歩と突いた第5図は△6五歩で銀が逃げるよりなさそうですが、それには▲7七銀と引く手が飛車当たり。続いて△8四飛▲7四歩△同飛▲6一角(参考図)と進めれば金取りと▲8三角成の両狙いが受からず先手有利になります。
【参考図は▲6一角まで】
【第5図からの指し手】
△6三銀
▲7四歩 △同 銀 ▲8七歩 △8二飛
▲5五銀 (第6図)
【第6図は▲5五銀まで】
後手が△6三銀と引くのはやむを得ないところですが、▲7四歩で後手の銀をそっぽに追いやったことに満足しておもむろに▲8七歩と収めましょう。こうなると「歩は交換されたけれど銀の働きで先手が上回っている」というふうに相手の狙いに十分対抗することができていますね。
後手はひとまず6四の歩を守らないといけませんが…。
【第6図からの指し手】
△6三金 ▲4五歩 △5四歩
▲4六銀引 △4五歩 ▲同 桂 △4二銀
▲4四角 (結果図)
△6三金に代えて△6三銀は▲7四歩△同銀▲6四銀で無効。△6三金は手堅い受けですが、「6筋方面が厚くなったから薄い4筋方面を攻めよう」というのが正しい大局観となります。▲4五歩に対して△同歩は▲同桂△4二銀に▲4三歩(参考図)がタタキの歩の妙手で先手の攻めが止まらなくなります。
【参考図は▲4三歩まで】
参考図から△4三同金には▲2四歩△同歩▲同飛、△4三同銀なら▲7一角△7二飛(△5二飛は▲4四歩)▲5三角成でいずれも攻めがつながり先手優勢。このように、右辺の厚みを生かした手厚い攻めは右玉の得意とするところです。
また、△5四歩の銀取りには▲4四銀と出たくなりますがこれは手拍子の悪手。今度はサッと△4二銀(参考図)と引かれて次の△4三歩の銀ばさみが受かりません。
【参考図は△4二銀まで】
冷静に▲4六銀引と一手タメるのが急所で、▲4四角(結果図)まで厳しい角打ちが決まって先手優勢となりました。結果図を見るとわかる通り、後手の7四銀と6三金がいずれも遊び駒になっているのに対して先手の4六銀と4七銀が厚みを築いて非常に価値の高い駒になっていることがわかっていただけるでしょう。以下は▲1一角成と▲7一角成、先述した▲4三歩の手筋を駆使すれば容易に勝つことができるでしょう。
■まとめ
・角換わり右玉は対腰掛け銀に限らず棒銀や早繰り銀にも使える
・千日手歓迎の待機策と左銀を繰り出す積極策がある
・飛車先歩交換をされた瞬間が反発のタイミング
・厚みを生かして敵陣を押しつぶそう
■参考棋譜
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7六歩 △3二金 ▲7七角 △3四歩
▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲7八金 △3三銀 ▲4八銀 △6二銀
▲4六歩 △6四歩 ▲4七銀 △6三銀
▲3六歩 △4二玉 ▲3七桂 △5二金
▲1六歩 △1四歩 ▲9六歩 △9四歩
▲5八金 △5四銀 ▲2九飛 △7四歩
▲4八玉 △4四歩 ▲3八玉 △3一玉
▲5六歩 △7三桂 ▲6六銀 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲7五歩 △6三銀
▲7四歩 △同 銀 ▲8七歩 △8二飛
▲5五銀 △6三金 ▲4五歩 △5四歩
▲4六銀引 △4五歩 ▲同 桂 △4二銀
▲4四角
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。