将棋の戦法を学ぼう(10)四間飛車対右四間飛車【応用編】

2025-11-04更新
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監修
北尾まどか
日本将棋連盟 女流棋士二段 / 株式会社ねこまど 代表取締役
「将棋をもっと楽しく 親しみやすく 世界へ」をテーマに2010年に株式会社ねこまどを設立。将棋教室や将棋イベントを開催している。 こどもや初心者に将棋を教えるための教材としてして開発した「どうぶつしょうぎ」で、園や学校・学童などの教育機関にて普及活動を行っている。

前回紹介した四間飛車対右四間飛車の応用編として、居飛車側が舟囲いでなくエルモ囲いに組んで仕掛ける指し方を勉強してみよう。

■時代はエルモ囲い

 エルモ囲いはいまから10年ほど前、将棋ソフトのelmoが採用したことで注目され出した囲いです(参考図)。

          【参考図はエルモ囲い】

 7九金+6八銀の組み合わせだけなら昭和の将棋にも見られた形。当時は急戦の将棋が持久戦に移行する流れの中でこの形に合流していた印象です。これに5九金を加えて積極的にひとつの囲いとして採用したのが新時代のフレッシュな発想で、①金銀の連結がよい点や、②玉が即詰みになりづらい点などがセールスポイント。

 ②に関しては、△9九角成と馬を作られた局面を見れば一目瞭然です。

          【参考図は△9九角成まで】

 参考図で、7九の金が6九にいるような舟囲いであれば先手玉は△9八飛からの詰めろ。この図であれば△9八飛に▲6九玉の逃げ道があるのがものを言いますね。

 それではさっそく定跡手順を見ていきましょう。

【初手からの指し手】

▲7六歩    △3四歩    ▲2六歩    △4四歩

▲4八銀    △4二飛    ▲4六歩    △6二玉

▲4七銀    △7二玉    ▲5六銀    △3三角

▲4八飛    △3二銀    ▲6八玉    △4三銀

▲7八玉    △5四銀    ▲3六歩    △8二玉

▲9六歩    △9四歩    ▲6八銀    (第1図)

         【第1図は▲6八銀まで】

 第1図までの手順は【基本編】とあまり変わりありませんが、▲5八金右に代えて▲6八銀と上がったのが工夫の始まり。このあと▲7九金と寄ることでエルモ囲いの骨格が見えてきます。

 なお、駒組みの途中で▲4五歩(参考図)の仕掛けを急いでもうまくいかないのは【基本編】で述べた通りです。

        【参考図は▲4五歩まで】

【第1図からの指し手】

△7二銀   

▲7九金    △5二金左  ▲5九金    △6四歩    

▲1六歩    △1四歩    ▲3七桂    (第2図)

        【第2図は▲3七桂まで】

 先手は右金を▲5九金とくっつけて囲いを完成させました。エルモ囲いでは右金を4九の地点に残したまま戦うこともあります。相手が三間飛車の時などはそうすることで△3九飛成を防ぐことができるメリットもありますが(参考図)、今回は相手が四間飛車なので潜在的な飛車筋を避けておくのが無難でしょう。

         【参考図は▲1六歩まで】

【第2図からの指し手】

△7四歩   

▲2五桂    △2二角    ▲4五歩    △2四歩   

▲4四歩    △2五歩    ▲4五銀    (第3図)

       【第3図は▲4五銀まで】

 舟囲いのときと同じ手順で仕掛けが始まります。この▲4五銀とぶつけた局面がひとつのポイントで、【基本編】と同様に△4五同銀▲同飛△5四銀と進めると▲2五飛△4四角▲同角△同飛▲2一飛成(参考図)と進んだときに四間飛車側はスムーズに飛車を成り込むことができません。

      【参考図は▲2一飛成まで】

 これがエルモ囲いに組むことの大きなメリットのひとつ。こうした変化があるからこそ駒組みの段階で▲5九金と寄っておく一手が大切なのだとわかりますね。参考図まで進んだ場合の勝ち方は【基本編】と同じです。

 なおエルモ囲いにおける右金は、▲5八金と上がることもありますが、これだと参考図のときに△4九飛成と成り込まれて失敗します。▲5八金型も基本的には対三間飛車用の組み方と考えておいてください。

【第3図からの指し手】

△6五銀  ▲2五歩    (第4図)

     【第4図は▲2五歩まで】

 銀交換になっては不満と見て振り飛車側は△6五銀とかわしてきました。これもまた対エルモ囲いに特有の指し方で、放っておけば△7六銀~△7五桂(参考図)といった要領で玉のコビンを攻めてくる筋のほか、△8四桂~△7六桂の角銀両取りの筋も残ります。こうなると6八の地点にも銀がいるエルモ囲いにはうまく嫌味を付けられた格好となるため、右四間飛車側はすばやく攻めを見つける必要がありそうです。

    【参考図は△7五桂まで】

 攻めを焦ってしまいそうな局面ながら、じっと▲2五歩(第4図)と歩を取り込むのが味わい深い好手。4四歩が後手の大駒を食い止めているので、その間に▲2四歩~▲2三歩成を間に合わせれば抑え込みが完成するという大局観に基づいています。

 果たしてどちらの攻めが早いのでしょうか。

【第4図からの指し手】

     △8四桂    ▲2四歩    △7六桂   

▲7七角    △6八桂成  ▲同金左 (第5図)

 

   【第5図は▲6八同金左まで】

 おたがいに指したい手を指しあって第5図。△6八桂成を▲同金左と取ったのはいびつな感じですが、代えて▲6八金右で取ると△5九銀(参考図)の割り打ちがあったためこれに備えたもの。

 駒割は先手銀損ながら形勢はいい勝負。やはり後手の大駒を抑え込む4四歩と、いまにもと金になりそうな2四歩が大きな存在感を放っています。

 ここからの展開としては、後手に抑え込みの網を破られないように指していく必要がありそう。一例ですが進展例を見てみましょう。

【第5図からの指し手】

△7六銀   

▲8八角    △3七銀    ▲4七飛    △4六歩    

▲3七飛    △3三桂(第6図)

        【第6図は△3三桂まで】

 後手は得した銀を犠牲に先手の飛車をへき地に追いやってきました。△3三桂が渾身の勝負手で、これに対して▲3四銀と出ていくと△2五桂!▲同銀△4四飛(参考図)と一気にさばかれ混戦にもつれこみます。

        【参考図は△4四角まで】

 参考図は先手の飛車と銀がひどい遊び駒になっており、駒割が先手桂得に転じたものの後手勝ちやすいと言えるでしょう。このように、必ずしも駒得した側が有利になるとは限らないのが将棋の面白さであり、一歩の価値がときに跳ね上がる展開は右四間飛車の戦いでは頻出します。

【第6図からの指し手】

▲5六銀    △2五桂   

▲2七飛    △4四角    ▲同 角    △同 飛    

▲2五飛    △4七歩成  ▲4五歩 (第7図)

【第7図は▲4五歩まで】

 第7図まで進めてようやく先手有利。角交換には持ち込まれましたが後手の飛車の活用は防いで駒得の主張を最大化することができそうです。

 以上みてきたように、同じ「四間飛車対右四間飛車」という戦型でも、囲いの形ひとつで中盤以降の戦い方が大きく変わってくるのが面白いですね。これを読んだ皆さんもぜひレパートリーにくわえてみてください。

■まとめ

・エルモ囲いは①金銀の連結がよい点と②玉が即詰みになりづらい点などがセールスポイント

・7九金+6八銀が駒組みの特徴

・右金は5八や4八にいてもよいが、対四間飛車では5九が基本⇒振り飛車側の飛車が成り込みづらい

・振り飛車側からは△7六銀~△7五桂、△8四桂~△7六桂の囲い崩しがある

・駒損でも大駒を抑え込んで有利になることがある

■参考棋譜

▲7六歩    △3四歩    ▲2六歩    △4四歩

▲4八銀    △4二飛    ▲4六歩    △6二玉

▲4七銀    △7二玉    ▲5六銀    △3三角

▲4八飛    △3二銀    ▲6八玉    △4三銀

▲7八玉    △5四銀    ▲3六歩    △8二玉

▲9六歩    △9四歩    ▲6八銀    △7二銀

▲7九金    △5二金左  ▲5九金    △6四歩

▲1六歩    △1四歩    ▲3七桂    △7四歩

▲2五桂    △2二角    ▲4五歩    △2四歩

▲4四歩    △2五歩    ▲4五銀    △6五銀

▲2五歩    △8四桂    ▲2四歩    △7六桂

▲7七角    △6八桂成  ▲同金左    △7六銀

▲8八角    △3七銀    ▲4七飛    △4六歩

▲3七飛    △3三桂    ▲5六銀    △2五桂

▲2七飛    △4四角    ▲同 角    △同 飛

▲2五飛    △4七歩成  ▲4五歩

執筆者 

水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)

日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。

ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。

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