将棋の戦法を学ぼう(9)四間飛車対右四間飛車【基本編】
今回はアマチュアにも人気の右四間飛車を学んでいこう。ひとつの攻め方を知るだけで、相手のさまざまな戦法に対して幅広く対応できるシンプルさが右四間飛車の魅力だ。ここでは相手が四間飛車のときの指し方を紹介する。
■アマチュアに人気の右四間飛車
今回は四間飛車に対する右四間飛車の戦い方を学んでいきましょう。右四間飛車はその名の通り右から4番目、4筋に飛車を振る作戦で、「攻めは飛車角銀桂」の格言通りの破壊力ある攻めが特色です(参考図)。
【参考図は右四間飛車の基本形】
一点、注意しないといけないのはその成立条件。相手が△4四歩と突いてくれない場合は4五の地点で歩がぶつからず、そもそも攻めが始まらないので注意が必要です(失敗図)。
【失敗図は▲4五歩まで】
それではさっそく四間飛車対右四間飛車【基本編】の攻防を見ていきましょう。【基本編】としたのは、次回紹介するエルモ囲いを【応用編】として紹介するためです。
【初手からの指し手】
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩
▲4八銀 △4二飛 ▲4六歩 △6二玉
▲4七銀 △7二玉 ▲5六銀 △3三角(第1図)
【第1図は△3三角まで】
繰り返しになりますが、後手が△4四歩という一手を指してから右四間飛車を目指すのがポイントです。そのあとは▲4六歩から一直線に▲5六銀型を目指します。途中で四間飛車側から△4五歩と突かれる手が気になるかもしれませんが、▲同歩△同飛▲4六歩(参考図)と素直に収めておいて大したことはありません。
【参考図は▲4六歩まで】
参考図からは△4二飛に▲4八飛~▲5六銀として、4筋の歩を伸ばしていけば自然とうまくいくでしょう。
【第1図からの指し手】
▲4八飛 △3二銀 ▲6八玉 △4三銀
▲7八玉 △5四銀 ▲5八金右 △8二玉(第2図)
【第2図は△8二玉まで】
右四間飛車の構えができたら玉型の整備に移ります。気が早い人は後手の銀が間に合う前に(△4三銀に対して)▲4五歩と突きたくなるかもしれませんが、これも△同歩▲同銀△8八角成▲同銀△3三桂(失敗図)でうまくいきません。
【失敗図は△3三桂まで】
失敗図から▲5六銀には△5二銀▲4二飛成△同飛で飛車交換になるのが一例。後手陣が堅いのに対し、先手陣は△2八飛の打ち込みが残り不利となります。
右四間飛車に限らず、自玉の囲いができていない段階で攻めていくのはよほどのことがない限りうまく行きません。
【第2図からの指し手】
▲9六歩 △9四歩 ▲3六歩 △7二銀
▲3七桂 △5二金左 ▲1六歩 △1四歩(第3図)
【第3図は△1四歩まで】
おたがいに端歩を突き合ってだんだんと戦機が熟してきました。右四間飛車側としてはここから▲7七角などと玉の囲いに手をかける方法もありますが、今回はわかりやすく攻めていく展開を見てきましょう。
なお、四間飛車側は基本的に先攻することができないため、先手の持久戦策に対しては△6四歩~△6三金、△1二香などと手待ちをしながら自陣を整備することになります。
【第3図からの指し手】
▲2五桂 (第4図)
【第4図は▲2五桂まで】
いよいよ仕掛けました。単騎の桂跳ねは「桂の高跳び歩の餌食」になりそうで怖いのですが、その代償があれば大丈夫。たとえば第3図で△2四角とこちらにかわしてくれば、▲4五歩(参考図)となって早くも一本取っています。
【参考図は▲4五歩まで】
参考図から△4五同歩には▲1一角成があるのですが、後手はこれに代わる反撃をするのも大変なことがわかります。これは先手有利です。ということで▲2五桂には△2二角が定跡となります。
ただし、1筋の突き合いがない場合は▲2五桂に対して△1五角(失敗図)という手があるので頭の片隅に入れておいてください。さりげない1筋の歩突きには大きな意味があるのでした。
【失敗図は△1五角まで】
【第4図からの指し手】
△2二角 ▲4五歩 △2四歩
▲4四歩 △2五歩 ▲4五銀 △同 銀
▲同 飛 (第5図)
【第5図は▲4五同飛まで】
4筋で銀交換となって一段落。先手は桂損となっていますが、代わりに大駒の働きで大きなリードを得ています。このように、将棋ではどこか一方で損をしても別の場所でポイントを挙げ返すことができればよいという考え方が重要になってきます。相手が得をしそうになったとき(たとえば棒銀で突破してきそうな局面)、その得を拒否すること(狙われた地点に守り駒を集めるなど)ばかり考えると失敗してしまうこともあるので注意してください。
とにかく、第5図では次に▲4三銀のわかりやすい狙いがあるので後手はそれを防いできます。
【第5図からの指し手】
△5四銀 ▲2五飛 △4四角
▲2一飛成 △8八角成 ▲同 銀 △4九飛成(第6図)
【第6図は△4九飛成まで】
4三の地点を守る△5四銀には▲2五飛の転回が気持ちよい活用。おたがいに竜を作り合って終盤戦になだれ込みます。
第6図で形勢判断をしてみると、駒の損得はなし(先手は2一桂を取り返した)、玉の堅さは美濃に軍配が上がりそう。駒の働きでいうと先手だけ銀を手持ちにしている点が光ります。総合するとザックリいい勝負という感じに見えるでしょうか。しかしここから右四間飛車側のとっておきの寄せが始まります。
【第6図からの指し手】
▲9五歩 △同 歩 ▲9三歩 △同 香
▲9四歩 △同 香 ▲8六桂 (第7図)
【第7図は▲8六桂まで】
側面からの攻めに固執してしまうと▲3三角~▲4四桂といった攻めになることが予想されますが、後手からは竜の利きを生かして△4一歩とそこ歩を打つ手もあって案外面倒です。
持ち駒の豊富さに注目して▲9五歩と玉側の端に手をつけるのが絶品の感覚です。対美濃囲いの終盤で持ち駒に「桂+歩が数枚」という状況になったら、ぜひ端攻めを狙ってみてください。
香取りをかけた第7図は先手優勢。後手は持ち駒に銀があれば△8五銀と「桂先の銀定跡なり」で受けることができるのですが、その銀はすでに5筋に手放してしまっています。こうなると次に▲9四桂が受けづらく、△8五角と粘ってみても▲9四桂△同角▲9五香(参考図)の狙いが厳しく残ります。
【参考図は▲9五香まで】
参考図からは△7六角に▲9一角~▲9二香成で一手一手の寄り形です。右四間飛車側の破壊力がいかんなく発揮された手順となりました。
次回は【応用編】として、右四間飛車側がエルモ囲いにする手順を紹介する予定です。
■まとめ
・攻めは飛車角銀桂
・囲いを作るまでは攻めを急がない
・桂損をしてもその代償があればよい
・攻防の中で右四間飛車側だけが銀を手持ちにするのがさりげないポイント
・豊富な持ち駒(特に桂と歩)を生かして端から美濃囲いを崩そう
■参考棋譜
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △4四歩
▲4八銀 △4二飛 ▲4六歩 △6二玉
▲4七銀 △7二玉 ▲5六銀 △3三角
▲4八飛 △3二銀 ▲6八玉 △4三銀
▲7八玉 △5四銀 ▲5八金右 △8二玉
▲9六歩 △9四歩 ▲3六歩 △7二銀
▲3七桂 △5二金左 ▲1六歩 △1四歩
▲2五桂 △2二角 ▲4五歩 △2四歩
▲4四歩 △2五歩 ▲4五銀 △同 銀
▲同 飛 △5四銀 ▲2五飛 △4四角
▲2一飛成 △8八角成 ▲同 銀 △4九飛成
▲9五歩 △同 歩 ▲9三歩 △同 香
▲9四歩 △同 香 ▲8六桂
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。