将棋の戦法を学ぼう(2)
今回はゴキゲン中飛車と並んでアマチュアに絶大な人気を誇る石田流三間飛車の定跡を紹介します。角道を止めて穏やかに指すノーマル三間飛車とは対照的に、いつでも角交換が発生するドキドキ感を楽しんでいただければと思います。
■乱戦歓迎の石田流
角道を止めないタイプの三間飛車は石田流(三間飛車)と呼ばれ、江戸時代の将棋指しが開発したことからその名がついたとされます。
参考1図に示したように、飛車を7六の地点に移動させるのが石田流の発動条件。角の位置は▲7七角や▲9七角、あるいはすぐの角交換などいろいろな位置取りが考えられます。▲7六飛を経由せずに戦う角道オープン三間飛車は「早石田」と呼ばれることもあります。
石田流は大駒の活用が容易なのが最大の魅力で、いつでも臨戦態勢!の心構えで指すのがよいでしょう。
参考1図
【初手からの指し手】
▲7六歩 △3四歩 ▲7五歩 △8四歩
▲7八飛 (第1図)
第1図は▲7八飛まで
さっそく石田流のための準備ができました。以前ご紹介した四間飛車(参考1図)などと比べると、▲7六歩~▲7五歩という2手が無駄なく敵陣に向かっている様子がわかります。
このあとは美濃囲いを作りながら、スキあらば開戦のチャンスをうかがう姿勢で指していきましょう。
参考1図は▲6八飛まで
【第1図からの指し手①】
△8五歩 ▲4八玉 △6二銀
▲3八玉 △6四歩 ▲2八玉 △6三銀
▲7六飛 (第2図)
第2図は▲7六飛まで
予定通り、▲7六飛の石田流に構えることができました。ここに至るまでの手順では、先手と後手双方から仕掛ける手段があるのですが、いずれもあまりうまく行きません。この点についてはこの稿の最後で補足しましょう。
【第2図からの指し手】
△4二玉 ▲3八銀 △3二玉
▲3六飛 (第3図)
第3図は▲3六飛まで
振り飛車が美濃囲いに構えるのはノーマル振り飛車と変わらない基本。自陣の憂いをなくして、先手はさっそく戦いを始めます。
▲3六飛(第3図)と回ったのはつぎの▲3四飛のタテ歩取りを狙った手で、後手が放置して▲3四飛(参考3図)となればさっそく先手成功です。
参考3図は▲3四飛まで
参考3図を見ていただけるとわかる通り、歩切れ(駒台に歩がない状態)の後手は王手に対して△3三角などと受けるよりなく苦しい形です。
【第3図からの指し手】
△8八角成 ▲同銀 △3三玉
▲7七角 △4四角 ▲同角 △同歩
▲3四飛 (第4図)
第4図は▲3四飛まで
△8八角成の角交換が居飛車の奥の手で、▲同銀に△3三玉が可能になっています。
なお△8八角成の瞬間にあわてて▲3四飛と取るのは悪手で、△3三馬(参考4図)と引かれると取れたはずの角(馬)に逃げられてしまって駒損となり敗勢です。
参考4図は△3三馬まで
さて第4図、いきなり先手は飛車を捨ててしまったのですが、大丈夫でしょうか?
【第4図からの指し手】
△3四同玉 ▲1六角 △2五飛
▲2六歩 (第5図)
第5図は▲2六歩まで
飛車捨ての代償に先手は角で王手をしました。王手飛車取りのような両狙いならともかく、このような単なる王手が厳しくなることは多くないのですが、後手に適当な合駒のないこの状況では例外的に成立する攻め筋です。
▲1六角に対して△3三玉と逃げれば▲6一角成(参考5図)と金を取って成功。▲金△飛の交換で駒損ではあるのですが、双方の玉型に大きな違いがあって実戦的には先手がかなり勝ちやすいでしょう。
参考5図は▲6一角成まで
なお参考5図の局面は、飛車を捨てて攻めていく爽快感が大きく、昔の定跡書では先手優勢!といった勢いで書かれていることもあります。しかし、将棋ソフトを用いて調べると案外差はついていないようです。
また、序盤の段階で後手が△5二金右という一手を指していた場合は、金が浮き駒になっていないのでそもそもの飛車切りが成立しません。派手な手順の定跡こそ細かな違いによって攻めの成否が入れ替わるので、繊細にならなければいけないという好例ですね。
△2五飛の合駒に▲2六歩(第5図)と突いたのも落ち着いた好手です。この手に代えて、飛車を取る手を急いで▲2五同角と取るのは△同玉となり、駒割(駒の損得)は先手の角損になって失敗です。このように、身動きが取れない駒(この場合は2五の飛)を歩のように安い駒で狙う手は上級を目指すうえで欠かせないテクニックになってきます。
【第5図からの指し手】
△2四歩 ▲2五歩 △同歩
▲2六歩 △3三玉 ▲2五角 △5二金右
▲6一飛 (第6図)
第6図は▲6一飛まで
無事飛車を取って、第6図までで一段落。あらためて駒割り先手の一歩得に落ち着きました。ここから勝ち切るまでは大変ですが、陣形が乱れている後手がここから指しこなすのは大変でしょう。
この定跡は先手の飛車が▲3六飛~▲3四飛!と縦横に大活躍するのが見どころ。▲6六歩と止めてあるノーマル振り飛車ではなかなか実現しない筋ですね。
■補足
石田流の序盤では双方から序盤に仕掛ける筋が出てきます。主なものを2つほど紹介しておきます。
再掲第1図は▲7八飛まで
【第1図からの指し手②】
△8五歩 ▲4八玉 △8六歩 (途中図)
途中図は△8六歩まで
▲同歩 △同飛 ▲7四歩 △同歩
▲2二角成△同銀 ▲9五角(参考6図)
参考6図は▲9五角まで
居飛車が△8五歩と飛車先を決めたときは▲7七角と上がるのが振り飛車の基本手筋でした。今回はそれをおこたっていたように見えますが、先手は角交換を切り札にこのピンチを切り抜けることができます。
参考6図まできれいな王手飛車取りがかかって先手優勢。後手からのは早い△8六歩は無理筋と分かりました。
【第1図からの指し手③】
△8五歩 ▲7四歩 (途中図)
途中図は▲7四歩まで
△同歩 ▲同飛 △8八角成
▲同銀 △6五角(参考7図)
参考7図は△6五角まで
先手は急いで7筋を攻めていきましたが、急所の角打ちを喫して困ってしまいました。参考7図から▲7八飛と逃げれば△4七角成で馬を作られてしまいます。参考7図における将棋ソフトの形勢判断は互角なのですが、人間的には後手有利と判断したほうがよさそうです。
三間飛車は7筋を攻めていく戦法と思われがちですが、実際には今回紹介したように3筋や、場合によっては6筋、8筋に転戦して戦うことも多いということを頭の片隅に入れておいていただければと思います。
【まとめ】
・石田流(早石田)は角道を止めない積極的な振り飛車戦法
・角頭を守る▲7七角は不要で、△8六歩と突かれたときは角交換を切り札に戦う
・▲6六歩を突いていないのを生かして▲3六飛で揺さぶる手が切り札の一つ
・不安定な敵の玉型を突いて積極的に攻めていこう
・合駒を歩で攻めると駒得しやすい
【参考棋譜】
▲7六歩 △3四歩 ▲7五歩 △8四歩
▲7八飛 △8五歩 ▲4八玉 △6二銀
▲3八玉 △6四歩 ▲2八玉 △6三銀
▲7六飛 △4二玉 ▲3八銀 △3二玉
▲3六飛 △8八角成 ▲同 銀 △3三玉
▲7七角 △4四角 ▲同 角 △同 歩
▲3四飛 △同 玉 ▲1六角 △2五飛
▲2六歩 △2四歩 ▲2五歩 △同 歩
▲2六歩 △3三玉 ▲2五角 △5二金右
▲6一飛
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。