将棋を学ぼう(2)
玉・飛・角の動きはマスターできたでしょうか。この3枚を使った対局はダイナミックでスリルあふれるものですが、相手が慣れてくるとなかなか相手の玉を捕まえるのはむずかしいことに気づくかもしれません。このページでは飛と角がパワーアップするルールを紹介するとともに、玉の効率よい捕まえ方についてお伝えします。
■この項で学ぶこと
竜と馬の動き 駒が成る条件 敵陣と自陣 詰み
駒得・駒損 数の攻め(数の論理)
■駒が成るとは
今回はあらたに竜と馬という2種類の駒を導入します。新しい駒が増えるようですがご心配なく。竜は飛の、馬は角の進化形であり、したがってその動きも覚えやすいものになっています。
まずは竜の動きから。竜は飛がパワーアップしたもので、その動きは飛に玉の動きを足したようなものになっています。なお書籍やサイトによっては「龍」という旧字体の表記が使われている場合もありますが、どちらで書いてあっても駒としての機能はまったく同じです。
つづいて馬の動き。馬は角の進化版で、その動きは角に玉を足したようなものになっています。竜と馬は将棋の駒すべてのなかでもトップレベルに強力なもので、これらをうまく使えるかどうかが勝敗を分けることもよくあります。
竜と馬の動き方がわかったところで、どうすれば駒が進化できるかについてお伝えしましょう。
将棋盤は大きく3つのエリアに分けられます。自分から見て手前側のヨコ9マス×タテ3段分を「自陣(じじん)」、奥側のヨコ9マス×タテ3段分を「敵陣(てきじん)」と呼びます。中間の9マス×3段分には特に名前はありません。将棋盤をよく見ると、盤上に4つの点が打ってあることに気づくでしょう。この4つの点は「星」と呼ばれ、自陣と敵陣を判断するときに便利ですね。
さて、一部の例外を除いて駒は(A)敵陣に入る、(B)敵陣から出る、(C)敵陣内で動くという3つの条件のいずれかを満たしたときにパワーアップすることができます。この操作を「成る(なる)」と呼び、駒を裏返すことでそれを示します。(図:3つの「成る」)
成りに関するいくつかの注意点を補足しておきましょう。まず、駒を成らせるかどうかは基本的に対局者が選ぶことができます。戦術上は成ったほうがよい場合が多いですがそれはあくまでそれは指す人の自由。実際は、のちに紹介する銀・桂・香においては成らずに使うほうがよいケースもしばしば出現します。成れる場面であえて成らないことを「不成(ならず)」と呼びます。
ただし、一度成ってしまった駒は相手に取られるまで表に戻ることはありません。成っていない駒が不成のまま戦ってのちに条件を満たしたときに成るということはできますが、一度成った駒はもとの状態に戻すことはできないということですね。相手に取られた駒は駒台に載り、また表の状態から戦いに復帰します。
続いて持ち駒を敵陣に打つ場合について。取った駒を敵陣に打ち込む場合は、最初は表のまま使います。その後、その駒を動かすタイミングで成りの権利が生じます(上記(B)と(C))。この点は間違いやすいのでよく覚えておいてください。
■さっそく実戦へ
細かい話が続きましたが、これを踏まえてまた玉飛角のミニゲームにチャレンジしてみましょう。2人の対局者はすでに相手からの王手は見逃さないようになっているようです。
これが初期配置。元気よくあいさつをして対局を始めましょう。「よろしくお願いします!」
先手は角を取りつつ飛車を成りました。
負けじと後手も応戦します。
先手は竜を敵玉にぶつけて王手!
しかしあえなく取られてしまいました。
やむを得ず玉を動かして手待ちをしますが…
こんどは後手から痛烈な王手。このあと先手は玉で飛を取ったものの、竜に取り返されて負けとなってしまいました。
■良い王手と悪い王手
失敗から学ぶのは将棋にかぎらず上達の王道。本局ではおたがいが1回ずつ王手をかけたのですが、その結果には大きな違いが生まれていました。
強力な竜を使って敵玉にアタックしたのがこの部分図。一見調子がよさそうなのですが、玉に取られてしまうと先手は竜が取られたままになって失敗となりました。このように、自分の駒を相手に与えてしまったり、交換のなかで損してしまったりすることを駒損(こまぞん)と呼びます。駒損すると戦力ダウンとなり勝利が遠のくので注意が必要です。一方で、今回の後手のように駒を取ったり有利な交換をしたりしながら戦力を増やすことを駒得(こまどく)と呼びます。駒得した側はその後も有利に戦いを進められる傾向にあるので勝つためにはこれを意識するとよいでしょう。
そんな後手が見せた王手を確認してみます。
飛車を使って王手。持ち駒を使うときはまず表の状態で使うのでしたね。先手は玉をどこに逃がしても後手の竜と飛のどちらかに捕まってしまいますし、王手をかけている飛のことを玉で取るのも竜で取り返されてあえなくゲームセットです。
このように、王手がかけられた側がどのような手を指しても次に玉を取られる手を防げない状態を詰み(つみ)と呼びます。将棋に慣れてくると王手放置などの反則による決着が徐々に減っていき、次第にこの詰みで勝負が決まることが増えてくることになります。将棋は玉を取るゲームであることは間違いないのですが、実質的にはいかに双方の玉を詰みにする(詰ませる)かというゲームと言い換えることができるでしょう。
詰みの一例であるこの形に再び注目してみます。今回でいうと玉が飛を取ったとして、そのすぐそばに竜が控えているという点が重要でした。ある駒が取られたとしてもすぐに取り返せる形は紐付き(ひもづき)と呼び、今回の例では「飛に竜の紐がついていた」と表現します。王手や詰みに限ったことではないのですが、将棋においてはこの「紐をつけることで取られたらすぐに取り返す」が基本動作の一つとして頻出しますのでぜひ覚えておいてください。
ひるがえって、先手のほうはどのように工夫すればよい王手をすることができたのでしょうか。
ここで敵玉の目の前に竜を突進していったのはただ取られて継続の手段がないという悪い例でした。そこで角を打って援軍としてみます。
王手をかけられた後手は玉を右に逃がします(将棋における左右は指す人の側から見て言う慣例)が…。
今度こそ竜が飛び込んでいって王手。これは良い王手と悪い王手のどちらに当たるでしょうか?
後手の玉が竜を取ったとき、先手は角を使ってこの玉を取り返すことができますね。すなわちこの竜での王手は良い王手だったことがわかります。この例から、孤立する玉を攻めるときには竜と角、竜と馬のように2枚(以上)の駒が協力する形を実現すると勝ちやすいようです。回を改めて詳述しますが、ある地点を攻めるときに相手の守り駒より多くの駒で攻めるとよいという法則を数の攻めとか数の論理と呼びます。
最後に、王手と詰みの違いについて確認して締めくりたいと思います。
さきほどの竜での王手を竜を前進させる形に変えました。これで後手玉は詰みになっているでしょうか。
答えはノーですね。上図のように玉が上に逃げ出すことで玉が取られることを回避することができています。むやみに王手をしないのも上達のコツです。
最初のうちは自分の駒を相手の駒にアタックしていく感覚は「取られそうで怖い」と思ってしまいがちですが、数で勝っていればむしろ積極的にぶつけることで最短の勝ちになるということを忘れずにおいていただければと思います。
■まとめ
今回は竜と馬の動き方を学んだのち、あらためて実戦形式で勝敗がつくところを見ていただきました。駒得しながら数の攻めをすることでたくさん白星を積み重ねていきましょう!
・駒得すれば勝ちやすい、駒損すれば負けやすい
・あるマス目に対しては駒の利きの数が多い方が支配権を持つ(数の論理)
・良い王手は、王手している駒が取られてもすぐ別の駒で取り返せるよう準備されている
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。