将棋の戦法を学ぼう(3)
四間飛車やゴキゲン中飛車、石田流といった振り飛車の花形を学んだあとは、すこし気取って角換わり腰掛け銀の定跡を勉強してみよう。プロでも指される人気戦法なだけに内容も複雑だが、基本を紐解いて見れば案外わかりやすい仕組みになっているようだ。
■この項で学ぶこと
相居飛車の4戦型 腰掛け銀 ▲4八金+▲2九飛型
攻めは飛車角銀桂 争点 当たりになる
捨て駒と両取りを駆使して攻める
■プロ御用達の作戦
前回まででかんたんな振り飛車の定跡を勉強してきましたので、いったん気分を変えて相居飛車の定跡を紹介してみましょう。
今回紹介するのは角換わり腰掛け銀と呼ばれる定跡。藤井聡太竜王をはじめとするトップ棋士たちが連日採用していることでも知られます。角換わりというのはその名の通り序盤早々に角交換が行われるのが特徴で、以降は双方が角を手持ちにしたまま戦況が推移します。腰掛け銀というのは盤上中央の歩の前に銀が乗った形を指し、両者が腰掛け銀を選んだ形はとくに相腰掛け銀とも呼ぶことがあります。
今回は初手からではなく、中盤のハイライトシーンから解説を始めたいと思います。第1図をご覧ください。5筋で2枚の銀が向かい合っているのがわかりますね。先後同型の局面、ここからさっそく戦いが始まります。
【第1図は△4四歩まで】
【第1図からの指し手】
▲4五歩 △同 歩 ▲同 銀 △同 銀
▲同 桂 (第2図)
【第2図は▲4五同桂まで】
4筋で歩がぶつかって銀交換が行われました。駒の損得としては▲角銀歩△角銀歩でまったくの互角ですが、先手は一手早く攻められる優位性を生かしてドンドン攻めていきます。
第2図で手番は後手にありますが、3三銀が当たり(次に取られる)になっており、逃げる必要があるので実質的には先手の手番。持ち駒の角をどう使うのかに注目して見ていただければと思います。
【第2図からの指し手】
△4四銀 ▲6三銀 △同 銀
▲7二角(第3図)
【第3図は▲7二角まで】
意表の銀のタダ捨てから華麗な飛車金両取りのコンビネーションが決まりました。先に銀を捨てているので厳密には先手は大きな駒得になるわけではないのですが、馬を作れるのが大きく敵陣攻略が見えてきます。
もうすこし先を追ってみましょう。
【第3図からの指し手】
△7一飛 ▲6三角成 △5四銀 (第4図)
【第4図は△5四銀まで】
先手が金を取ったところ、後手は持ち駒の銀を投入して守りを固めてきました。馬取りですので逃げる必要がありそうですが、単純な▲6二馬でよいでしょうか。もっと良い手がないか、すこし時間を取って考えてみてください。
【第4図からの指し手】
▲5三桂成 △同 銀 ▲5二金 △3三玉
▲5三馬 (第5図)
【第5図は▲5三馬まで】
数で足りない5三の地点に桂が飛び込んでいくのが読みの入った好手でした。△同銀に▲5二金と打てば、王手銀取りになるので取り返すことができるという寸法です。まさに損して得取れの手筋ですね。
第5図まで進むと駒割りは▲金△桂で先手の駒得、さらに飛車銀両取りがかかっているので駒得を拡大することができそうです。加えて敵陣の急所に作った馬も大きく、形勢は先手の優勢と断言して差し支えないでしょう。△8一飛と逃げてくれば▲5四馬がまた飛車取りになって好調です。
このように、角換わり腰掛け銀は飛車角銀桂すべてを使ったダイナミックな攻めが繰り出せるのがその魅力(格言「攻めは飛車角銀桂」)。一手遅れを取ると取り戻すのが大変なのでプロはその先陣争いに昼夜あたまをなやませているということなのです。具体的には第1図の△4四歩に代えて△5二玉(参考図)と寄る手が流行しています。参考図では▲4五歩と突いても歩がぶつからない(争点ができない)ので先手は攻め方に苦労します。
【参考図は△5二玉まで】
■序盤の手順をマスターしよう
それではここで序盤に立ち返り、初手からの手順について学んでいきましょう。
【初手からの指し手】
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7六歩 (第6図)
【第6図は▲7六歩まで】
相居飛車においては序盤の数手で戦型が決まることになります。大きく分けて相掛かり、角換わり、横歩取り、矢倉(雁木)の4つに分けることができ、その分類はざっくり言って①飛車先の歩交換をする/しない、②角交換をする/しないの2×2=4通りになるということですね。この分類法はあくまで理解のための大まかな基準なのでご容赦ください。
4分類の中で飛車先歩交換も角交換もしないのは矢倉で、おたがいにしっかり囲いを作って戦う形になりやすい。逆に両方交換するのは横歩取りで、いつでも臨戦態勢のオープンな展開になりやすいのが特徴です。角を交換して歩交換はしない角換わりはその中間といった穏やかさでしょうか。
角交換する |
角交換しない |
|
歩交換する |
横歩取り |
相掛かり |
歩交換しない |
角換わり |
矢倉(雁木) |
具体的には第6図の▲7六歩が角換わりを志向した手。△8六歩▲同歩△同飛の歩交換には▲2四歩△同歩▲2三歩(参考図)の返し技を用意して牽制しています。参考図は後手は竜を作れますが、先手の角得の方が大きいですね(歩と角の駒の交換は、歩の価値が限りなく低いため角得と判断される)。
【参考図は▲2三歩まで】
【第6図からの指し手】
△3二金 ▲7七角 △3四歩
▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀(第7図)
【第7図は△2二銀まで】
先手は無事に8筋の歩交換を防ぐことができました。今度は自分が▲2四歩△同歩▲同飛と狙い筋を決行できそうですが、これはうまく行くでしょうか?
実験してみましょう。第7図から▲2四歩△同歩▲同飛には△3五角(参考図)が返し技。こうなると▲3四飛と横歩を取っても△5七角成と馬を作られる損のほうが大きそうですね。▲3二飛成と金を取っても△同飛!で取り返されてしまいます。
このように、相居飛車の序盤戦は早い段階から戦いが起こる下地があるのでうかうか気が抜けずスリリングなんです。そこを楽しめるようになると素敵な相居飛車ライフが待っているかもしれません!
【参考図は△3五角まで】
【第7図からの指し手】
▲7八金 △3三銀 ▲4八銀 △6二銀
▲4六歩 △6四歩 ▲4七銀 △6三銀
▲3六歩 △7四歩 ▲3七桂 △7三桂
▲6八玉 △4二玉 ▲4八金 △6二金
▲2九飛 △8一飛 ▲9六歩 △9四歩
▲1六歩 △1四歩 (第8図)
【第8図は△1四歩まで】
長手数進めましたが、基本的に後手は先手の真似をしているので覚えやすいでしょう。このあたりは細かい手順前後はしてしまっても問題ありません。
注目していただきたいのは▲4八金と▲2九飛という2手で、この「▲4八金+▲2九飛型」の組み合わせがあることにより自陣への角の打ち込みをなくすことができています。一昔前は▲5八金+▲2八飛型という形が流行っていたのですが、流行は移り変わるのですね。
序盤の駒組みもそろそろ終わりですね。ここからは4手で冒頭の第1図に合流します。
【第8図からの指し手】
▲5六銀 △5四銀 ▲6六歩 △4四歩(再掲・第1図)
【再掲第1図は△4四歩まで】
では今回のまとめです。
■まとめ
・相居飛車の戦型は大きく4つ(角換わり、横歩取り、相掛かり、矢倉)に分かれる
・それぞれを見極めるには角交換の有無、飛車先歩交換の有無を見るとわかりやすい
・角換わりは角を交換して飛車先の歩は交換しない戦型
・▲5六銀、△5四銀と銀が歩の前に出る指し方を腰掛け銀と呼ぶ
・▲4八金+▲2九飛型が近年の流行
・攻めが筋に入るとすさまじい破壊力を発揮する
・手筋を駆使して攻め続けよう
■棋譜
▲2六歩 △8四歩 ▲2五歩 △8五歩
▲7六歩 △3二金 ▲7七角 △3四歩
▲8八銀 △7七角成 ▲同 銀 △2二銀
▲7八金 △3三銀 ▲4八銀 △6二銀
▲4六歩 △6四歩 ▲4七銀 △6三銀
▲3六歩 △7四歩 ▲3七桂 △7三桂
▲6八玉 △4二玉 ▲4八金 △6二金
▲2九飛 △8一飛 ▲9六歩 △9四歩
▲1六歩 △1四歩 ▲5六銀 △5四銀
▲6六歩 △4四歩 ▲4五歩 △同 歩
▲同 銀 △同 銀 ▲同 桂 △4四銀
▲6三銀 △同 金 ▲7二角 △7一飛
▲6三角成 △5四銀 ▲5三桂成 △同 銀
▲5二金 △3三玉 ▲5三馬 まで
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。