将棋の戦法を学ぼう(1)

2025-07-04更新
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監修
北尾まどか
日本将棋連盟 女流棋士二段 / 株式会社ねこまど 代表取締役
「将棋をもっと楽しく 親しみやすく 世界へ」をテーマに2010年に株式会社ねこまどを設立。将棋教室や将棋イベントを開催している。 こどもや初心者に将棋を教えるための教材としてして開発した「どうぶつしょうぎ」で、園や学校・学童などの教育機関にて普及活動を行っている。

前回の「将棋を学ぼう(6)」の四間飛車を一例として、振り飛車にはさまざまな戦法が用意されています。今回はゴキゲン中飛車を例にとって、飛車や角といった大駒が乱舞する華麗な戦いの定跡を学んでみましょう。

■この項で学ぶこと

ノーマル振り飛車・角交換型振り飛車 ヒモをつける 桂先の銀 素抜く 二枚換え 居玉は避けよ 終盤は駒の損得より速度

■人気のゴキゲン中飛車

今回はゴキゲン中飛車を例として振り飛車の定跡をご紹介します。前回学んだ四間飛車では序盤早々に角道を止めていましたが、このゴキゲン中飛車は▲6六歩という一手を指さないのが最大の特徴で、下図のような駒組みを理想としています。

       ゴキゲン中飛車の理想形

 このゴキゲン中飛車においても四間飛車同様たしかに角道は止まっているのですが、ひとたび▲5四歩と突き出せば飛車と角の道が一気に開いて臨戦態勢になるのが特徴。▲5四歩に対して後手はこれを放置することができないので(5三にと金を作られる)、実質的に振り飛車側はいつでも角交換を迫る権利を持っていることになります。

 このように大駒をダイナミックに活用できる可能性があるため、近年ではゴキゲン中飛車の人気が爆発的に広まってきているようです。

 なお、前回学んだような▲6六歩と止めるタイプの振り飛車を俗に「ノーマル振り飛車」、▲6六歩を突かないタイプの振り飛車を「角交換型振り飛車(角道オープン振り飛車)」と呼んで対比することがあります。

            ▲ノーマル振り飛車の例

 それではさっそく定跡を見ていきましょう。今回は上に示したゴキゲン中飛車の理想形に組む以前の段階、居飛車側からの乱戦への対策を考えてみます。

【初手からの指し手】

 ▲5六歩(第1図)

             第1図は▲5六歩まで

非常にわかりやすい初手で、さっそく中飛車を明示します。

【上図からの指し手】

      △3四歩 ▲5八飛 △8四歩

▲7六歩  △8五歩 ▲5五歩 (第2図)

             第2図は▲5五歩まで

 ノーマル振り飛車においては居飛車側が△8五歩と飛車先の歩を伸ばしてきたときに▲7七角(参考1図)と上がるのがセオリーでした。そうすることで△8六歩▲同歩△同飛に▲同角と取ることができます。しかし、いつでも角交換のできるゴキゲン中飛車ではそれ以外の対処法があります。

          参考1図は▲7七角まで

【上図からの指し手】

△8六歩 (第3図)

            第3図は△8六歩まで

さっそく角頭が攻められました。どうしましょうか?これが今回のテーマです。

【上図からの指し手】

▲8六同歩 △同飛 ▲5四歩 (途中図)

              途中図

       △同歩  ▲2二角成 △同銀 

▲7七角 (第4図)

             第4図は▲7七角まで

 見事、角を打って飛車と銀の両取りをかけることができました。このあと後手は△8二飛と逃げれば2二銀にヒモをつける(取り返せるように守る)ことができますが、それには▲8四歩△3三銀▲8八飛(参考図)と8筋を逆襲して先手有利。

          参考2図は▲8八飛まで

 中飛車で始まった将棋でも場合によってはこのように向かい飛車に振り直す柔軟性が振り飛車党には求められることがしばしばです。

【第4図からの指し手】

      △8九飛成 ▲2二角成 △5五桂

(第5図)

            第5図は△5五桂まで

 △5五桂は居飛車側の設置したワナ。4七と6七の2か所への桂成りを受けるには▲5六銀と「桂先の銀」の手筋で受けるよりなさそうですが、それには△7七角(王手)▲6八銀△4七桂不成▲同銀△2二角成(参考図)で馬を取られてしまって先手失敗。

          参考3図は△2二角成まで

 このように、(今回でいうと角と角の)間の駒がうまくすり抜けることで向かい合った駒を取ることを素抜く(すぬく)と呼びます。素抜きをされた側はたいてい駒損になって失敗します。

【第5図からの指し手】

▲4八玉 △6七桂成 ▲5四飛 △5二歩

▲3八玉 (第6図)

            第6図は▲3八玉まで

 おそらく多くの定跡書ではこのあたりの局面まで進めて、「銀桂交換で駒得なので先手有利」といったような結論で締めくくられていることと思います。もちろん定跡としてはこのくらいで終わってもいいのですが、せっかくの機会なのでここからの勝ち方についても指南しておきましょう。

 ▲3八玉と寄ったのがあわてない好手で、なにかのときの△5七角(△6六角)の王手を防いでいます。囲いを組み切るまで角交換をしないノーマル振り飛車とはことなり、いつでも角交換の可能性のあるゴキゲン中飛車においてはなにかのときに角を打って王手飛車取りをかける手があるので注意しましょう。具体的には玉が3八の地点まで来ればだいぶ安全です。

 ▲3八玉に代えて▲3四飛と飛車が横に行くのはソッポで、△5七角▲3八玉△7九角成▲同金△同竜(参考図)と二枚換えで応じられると守り駒が少なくなって一気に先手玉は不安定な感じです。

          参考4図は△7九同竜まで

【第6図からの指し手】

     △3三角 ▲2一馬 △9九角成 

▲3二銀 △同金  ▲同馬  △4一銀

(第7図)

            第7図は△4一銀まで

 玉を安全地帯まで運んだのでようやく反撃の手番。相手は居玉(初期位置のままの玉)のままなのでだいぶ攻めやすそうです。「居玉は避けよ」という格言が伝える通り、居飛車側は本格的な戦いを始める前に玉を囲っておいた方がよかったようですね。

 また、具体的な攻めの手段としては▲3二銀という手が出てきました。敵玉を寄せる際にはいきなり王手で迫るのではなく、玉を守っている金駒(金・銀)を取れるように狙うのが基本となります。

 △4一銀と馬を弾かれて、馬が逃げるようでは面白くないのですが…。

【第7図からの指し手】

▲5三歩 △3二銀 ▲5二歩成 △同金

▲5三歩 (結果図)

            結果図は▲5三歩まで

 馬取りを放置して▲5三歩!と合わせの歩の手筋を放ったのが狙いの好手。「終盤は駒の損得より速度」という格言の通りで、馬を取られても結果図のように玉頭に大きな拠点を築いて勝利は目前です。

 結果図から①△4二金とにげてくれば▲5二金△同金▲同歩成と頭金の基本形で後手玉は詰み。②△5三同金と取るのも▲同飛成△5二歩▲4二金△6一玉▲5二竜(参考5図)でこれも後手玉は詰みですね。

           参考5図は▲5二竜まで

 ②の手順中、△5二歩の合駒に代えては△6一玉と逃げる手もありますが、これには▲6三竜と一間竜を継続するのが好手で、つぎの▲5二金の肩金との連携でやはり後手玉は詰みを逃れることができません。

 ここまで見てきたように、ゴキゲン中飛車は5筋に回った飛車を生かしてどんどん攻める積極性がその魅力。飛車に負けないくらい角も大きく働くので、チャンスと見れば交換を挑んで積極的に使ってみましょう。

【まとめ】

・ゴキゲン中飛車は角道を止めない振り飛車の一種

・△8五歩に対しては▲7七角と上がらないで対応することもある

・切り札は角交換で、▲5四歩と突くことで同時に飛車の活用も見込める

・居玉は避けよ、戦いの前に玉を1マスでも動かしておく

・寄せは敵玉そばの金銀に狙いをつける。手筋を駆使して一間竜の形を目指そう

【ゴキゲン中飛車棋譜】

▲5六歩    △3四歩    ▲5八飛    △8四歩

▲7六歩    △8五歩    ▲5五歩    △8六歩

▲同 歩    △同 飛    ▲5四歩    △同 歩

▲2二角成  △同 銀    ▲7七角    △8九飛成

▲2二角成  △5五桂    ▲4八玉    △6七桂成

▲5四飛    △5二歩    ▲3八玉    △3三角

▲2一馬    △9九角成  ▲3二銀    △同 金

▲同 馬    △4一銀    ▲5三歩    △3二銀

▲5二歩成  △同 金    ▲5三歩    △同 金

▲同飛成    △5二歩    ▲4二金    △6一玉

▲5二竜

執筆者 

水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)

日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。

ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。

 

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