将棋の戦法を学ぼう(5)三間飛車

2025-08-19更新
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監修
北尾まどか
日本将棋連盟 女流棋士二段 / 株式会社ねこまど 代表取締役
「将棋をもっと楽しく 親しみやすく 世界へ」をテーマに2010年に株式会社ねこまどを設立。将棋教室や将棋イベントを開催している。 こどもや初心者に将棋を教えるための教材としてして開発した「どうぶつしょうぎ」で、園や学校・学童などの教育機関にて普及活動を行っている。

 今回は三間飛車を勉強してみよう。飛車を7筋に回って美濃囲いに囲うシンプルな駒組みながら、居飛車穴熊のような持久戦策にも十分対抗できる機動性の高さがその大きな魅力。

■この項で学ぶこと

 △7四歩を見れば急戦、△5三銀や△3三角を見れば持久戦 敵陣に浮き駒があれば仕掛けのチャンス 左桂(のさばき)は振り飛車党の魂 優勢のときはわかりやすく やすり攻め

■相掛かり棒銀との違いは?

 以前扱った「将棋を学ぶ」の項では四間飛車の駒組みを通じて振り飛車の基本的な考え方を学びました。今回は三間飛車を例にとって、相手が居飛車穴熊に組んできたパターンの攻略法について考えてみましょう。

 さばきを重視する考え方は四間飛車と共通ですが、三間飛車ならではの攻撃陣と言えば石田流の布陣。飛車を7六の地点に構える機動性の高さがその大きな魅力です。

 さっそく見ていきましょう。

【初手からの指し手】

▲7六歩    △3四歩     ▲6六歩    △8四歩

▲7八飛    △8五歩     ▲7七角    (第1図)

       【第1図は▲7七角まで】

 三間飛車の態度を表明した瞬間、居飛車側は△8五歩と飛車先の歩を伸ばしてくる(飛車先を決めるという)ことが多いようです。代えて後手が△6二銀などとすると、先手は▲7五歩△8五歩▲7六飛(参考図)と理想的な手順で角頭を守ることができますね。

      【参考図は▲7六飛まで】

 参考図の局面はまだまだこれからの展開ですが、振り飛車としてはムダな手を指すことなく理想の石田流の形を作れるので不満はありません。なお、▲7六飛と浮くとことで▲7四歩と欲張るのは△同歩▲同飛に△8六歩と角頭を攻められ失敗します。

【第1図からの指し手】

                △6二銀 

▲6八銀 △4二玉  ▲4八玉 △3二玉 

▲3八玉 △5四歩  ▲2八玉 △5二金右

▲3八銀    △1四歩  ▲1六歩 △5三銀  

▲5八金左  △3三角 (第2図)

     【第2図は△3三角まで】

 長手数進めましたが、とにかくおたがいに駒組みを進めています。注目したいのは後手の△5三銀~△3三角という手順で、これを見ると居飛車の方針は持久戦に定まった印象です。

 反対に、急戦でくる場合は△7四歩(参考図)という符号がよく出てきます。

     【参考図は△7四歩まで】

 この歩突きによって居飛車側は△7三銀~△8四銀といった棒銀や、△7三桂といった桂の活用が可能になります。おおむね「△7四歩を見れば急戦、△5三銀や△3三角を見れば持久戦」、と覚えましょう。

【第2図からの指し手】

▲6七銀    △2二玉  ▲7五歩    △1二香   

▲5六銀 △4四歩 (第3図)

      【第3図は△4四歩まで】

 美濃囲いに組み終わった先手はここから戦いに向けた準備を進めます。▲5六銀と上がったのは細かい工夫で、△4四歩と突かせることによって後手の角が使いづらくなるようにしています。後手が△4四歩と突かずに△1一玉と突っ張ってくれば▲4五銀△3五歩▲3四銀(参考図)となり、角取りと▲2三銀成の狙いが残って先手良しとなります。

      【参考図は▲3四銀まで】

【第3図以下の指し手】

▲5九角    △1一玉     ▲7四歩    △同 歩

▲同 飛    △7三歩     ▲7六飛    (第4図)

      【第4図は▲7六飛まで】

 これで石田流の好形が完成しました。角が5九の地点に引っ越ししているのがやや気になるかもしれませんが、7七にいたままでは飛車が前に進めないのでやむをえません。石田流に組むための必要経費と思っておいてください。

 第4図から先手の指し手だけ言えば①▲6五銀▲7四歩から7筋突破を目指す方針、②▲7七角~▲6五歩として飛車角の働きのよさを主張する指し方もあります。今回は③▲7七桂と跳ねて飛車のさばきを優先する手順を紹介します。

【第4図からの指し手】

                △2二銀   

▲7七桂    △3一金  ▲7五飛    △8六歩   

▲同 歩    △同 飛     ▲8五飛   (第5図)

      【第5図は▲8五飛まで】

 第5図を見てください。一方的に飛車をさばかれ困ったかのようなところ、局面を一気に打開する飛車ぶつけで飛車交換が確約されました。△8六歩の歩突きをいったん▲同歩で取ったのも大事なところで、▲8五飛のぶつけを急ぐと△同飛▲同桂△8七歩成(参考図)でと金を作られる損が残るのでご注意を。

      【参考図は△8七歩成まで】

 第5図まで指せれば振り飛車としては理想的なさばきで、ここからは手にした飛車を敵陣に打ち込めば自然と攻めがつながる形。一例として終盤の指し方についても勉強してみましょう。

【第5図からの指し手】

                △8五同飛   

▲同 桂 △8九飛  ▲8二飛 △4二金寄   

▲8一飛成△9九飛成 ▲9一竜    △3二金寄   

▲7三桂成 (第6図)

     【第6図は▲7三桂成まで】

 通常、居飛車穴熊対美濃囲いの構図では居飛車穴熊の方が堅さで優るのですが、今回は後手陣の5二金が浮き駒になっていました。それによって▲8二飛と打った手を居飛車側は無視すること(手抜くこと)ができず、先手側が手番を握ったまま気持ちよく攻め続けることができるというからくりだったのです。

 「敵陣に浮き駒があれば仕掛けのチャンス」というのが将棋における大事な考え方で、こうなると遊び駒のない先手陣の引き締まった姿が美しく見えてくるでしょう。

 さて盤上、先手は手順に成桂を作って好調そのもの。成桂を取られなかったことで後手の手に桂が渡らないというのも見逃せないポイントです。「左桂(のさばき)は振り飛車党の魂」は全振り飛車党共通の合言葉です。

【第6図以下の指し手】

       △2四角  ▲6三成桂  △4二銀

▲5二成桂  △3三銀右 ▲5三桂 (第7図)

     【第7図は▲5三桂まで】

 こちらが最終図。見ていただけるとわかる通り、先手はここから▲4一桂成~▲3一成桂と、成駒を使って穴熊の金銀を削るだけで優位を拡大することができます(やすり攻め)。まさに「優勢のときはわかりやすく」の格言通りで、終盤での逆転を食らいづらいのもこの作戦の長所と思います。ぜひ実践で使ってみてくださいね。

 では最後にポイントをまとめます。

■まとめ

 ・三間飛車における攻めの理想形の一つは石田流

 ・角道を止める振り飛車では角をいったん退避させて飛車道を通す必要がある

 ・居飛車穴熊は美濃囲いより堅いが、浮き駒があるときはそうとも限らない

 ・手筋を駆使して飛車交換を目指す

 ・さばいた左桂を使って穴熊をやすり攻めにする

■参考棋譜

▲7六歩    △3四歩    ▲6六歩    △8四歩

▲7八飛    △8五歩    ▲7七角    △6二銀

▲6八銀    △4二玉    ▲4八玉    △3二玉

▲3八玉    △5四歩    ▲2八玉    △5二金右

▲3八銀    △1四歩    ▲1六歩    △5三銀

▲5八金左  △3三角    ▲6七銀    △2二玉

▲7五歩    △1二香    ▲5六銀    △4四歩

▲5九角    △1一玉    ▲7四歩    △同 歩

▲同 飛    △7三歩    ▲7六飛    △2二銀

▲7七桂    △3一金    ▲7五飛    △8六歩

▲同 歩    △同 飛    ▲8五飛    △同 飛

▲同 桂    △8九飛    ▲8二飛    △4二金寄

▲8一飛成  △9九飛成  ▲9一竜    △3二金寄

▲7三桂成  △2四角    ▲6三成桂  △4二銀

▲5二成桂  △3三銀右  ▲5三桂

執筆者 

水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)

日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。

ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。



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