将棋を学ぼう(3)
飛が成った駒である竜、そして角が成った駒である馬の動きはマスターできたでしょうか。今回はあらたに金と歩という2種類の駒を学びつつ、効率のよい王手のかけ方や詰みへの導き方を考えていきましょう。ここまでをクリアするとかなり本格的な将棋を楽しむことができますよ。
■この項で学ぶこと
金・歩・と金の動き 行き所のない駒
駒得と駒損 頭金 二歩 符号
■符号について
今回の話に入る前に符号について説明しておきましょう。テレビ対局を見たことのあるかたなら「先手7六歩」「後手3四歩」などのように読み上げられているのを聞いたことがあるかもしれませんね。このような記号のことを符号(ふごう)と呼び、盤上に定められたマス目と駒とを指定することにより盤上でのやり取りを正確に伝えることができます。
81マスからなる将棋盤は図のようにそれぞれのマス目に住所が割り振られています。
符号を伝える際にはまず①「先手か後手」を、つぎに②駒の移動先のマス目を指定して最後に③駒の名前を指定します。一例として「▲4五角」とあれば、下図のような状況が連想されます。
なお便宜上、先手のことは▲、後手のことは△で表記します。また符号においては基本的にどのマス目に行くかという行き先が重要で、どのマス目から来たかは明記されませんが、必要に応じて「打」「成/不成」「右/左」「上/引」といった補助記号をつけることもあります。本記事でもこれ以降、こうした符号を徐々に使っていくこととします。
■金と歩の動き
前回までで王手と詰み、そしてうまい王手の仕方について勉強してきました。王手はやみくもに追いかけるのでなく、玉を竜と馬の2枚の協力で追い詰めるのがよいのでしたね。数の攻めは将棋というゲーム全体に出てくる基本技術です。
今回は新たに金と歩という2種類の駒を導入していきます。さっそく金の動きから。
これが金の動き。玉とよく似ていますが、ナナメうしろに進むことができないのが特徴です。最初のうちはすこし覚えるのに苦労するかもしれませんが、小学生の生徒たちは「郵便ポストみたい!」「キノコの形だ」などと似ている図形になぞらえて覚えてくれています。
将棋を戦争のゲームとしてとらえたとき、飛や角は戦車や大砲のような大道具と見ることができます。「飛車」や「角行」といった名称がこれを裏付けます。これに対して玉や金は武将や司令官といった人間の兵士。「玉将」「金将」といった名前に残る「将」の字が将軍や武将といった人間としての属性を連想させますね。
ではつづいて歩の動き方について。
これ以上なくシンプルな動きです。一歩ずつ前に進み、後ろに進むことはありません。チェスに出てくるポーンと違って相手の駒を取るとき斜めに動くなどの特殊ルールもありません。なお歩の正式名称は歩兵ですが、これは「ふひょう」と読むのが正しいとされています。「ほへい」ではありませんので注意してください。
歩が成った状態は「と金」と呼び、その動きは以下の通り。
その名前から明らかですが、金の動きと全く同じをします。
ここまでに学んだ玉・飛・角・金・歩を初期配置につけると盤上はこのようになります。
ずいぶんと本物の将棋(本将棋=下図)に近づいてきた印象ですね。
■追加ルール
このあたりで対局開始といきたいところですが、ここで重要なルールを2つほど付け加えます。二歩と行き所のない駒についてです。
歩の動きを紹介したところでお気づきの方もいらっしゃるかもしれませんが、1マス前に進むことしかできない歩はいつか壁に突き当たることになります。一番奥のマス目まで進んだ図を見るとわかるように、これ以上は自力で進むことも戻ることもできませんね。
こんなことが起こると困ってしまうので、この▲7一歩の状態は「行き所のない駒」として反則と定められています。これを解消するために、二段目の地点にいる歩を前進させる際は強制的に成る必要が出てきます(▲7一歩成)。前項で「駒が成るかどうかは基本的に対局者が選べる」としたのはこのためで、同様の事象はこのあとの桂と香の説明のところでも出てきます。もちろん持ち駒の歩をいきなり敵陣一段目に打ち込むこともできません。
つづいて二歩について。下図のように、「どちらかのプレイヤーの歩が同一の筋(タテの列)に2枚存在している状態」を二歩と呼び、この状態はルールで禁じられています。
ここで注意したいのは、同じようでも相手の歩と自分の歩であれば大丈夫ですし、自分の歩であってもと金になっていれば二歩の反則には該当しないという点です。
下図を見てください。ですからここで▲7六歩と打ったり、▲8四とというふうにと金を寄せたりする手は全く問題ありません。一方で▲8四歩と打つ手は二歩の反則となります。加えて、▲7一歩と打つのは打ちどころのない駒の反則でした。この場合は▲7二歩と1マス控えて打って次に▲7一歩成とするなどの工夫が必要です。
■いざ実戦!
ではいよいよ実戦と行きましょう。先手が▲7六歩と歩を突いて角道を空けると、後手も△3四歩と同様の手で対応しました。
ここで先手が▲2二角成と角を取ったところ、後手も△同飛と応戦。「同」は直前の符号と同じ地点へ進めるよという意味で、自然と相手が直前に動かした駒を取ることを表現することになります。
ここで先手はかねてから用意の一手、▲3三角!の王手飛車取りを披露します。持ち駒を敵陣に打ち込むときはまずは表のまま使うのでした。
飛が逃げれば玉を取られてしまうと感じた後手は△6二玉と玉の安全を最優先します。先手は▲2二角成で首尾よく飛を得する戦果を挙げることができました。駒得をすると戦況を有利に進めることができますね(駒損すれば不利に)。この場合、先手は後手に何も与えぬまま飛を手にしたので飛車得したと言うことができそうです。
反撃に出たい後手は△1九角と意外な場所から先手陣攻略に乗り出します。
これに対し取られそうな飛が逃げる手も考えた先手ですが、思い直して▲1一飛と攻め合いに方針を転換。以下△2八角成▲4一飛成と激しい駒の取り合いに進展しました。
この数手の応酬で後手は飛を、先手は金を手にしました。飛と金の駒の価値としては飛のほうがやや優るのでこの交換は後手がやや得しています。しかし最初のうちはそのような細かい損得計算は気にしなくても大丈夫。ここから戦いは終盤戦に突入します。
上図から△5一金▲3二竜△7一玉と進んだ下図が本局のハイライトでした。
ここで先手は好手(こうしゅ、よい手のこと)を指して1手で後手玉を詰みに討ち取ることができました。ここではその王手を皆さまにもすこし考えていただきましょう。
いかがでしょうか。先手が指したのは▲7二金という金の王手で、このまま後手玉は詰みとなり先手の勝ちが決まりました。
後手は玉で金を取っても竜に玉を取り返されてそれまでですし、かといって放っておいても次に金が玉を取ってくる手(▲7一金)を防ぐことができません。というわけでこの状態は詰みと確認できました。
詰みにはさまざまな形があるのですが、上図のように「相手玉のすぐ前に金を打って(進めて)」詰みにする形を頭金(あたまきん)と呼びます。頭金は詰みの中でももっとも基本的かつ重要ですので是非ご記憶ください。もちろん今回のケースでいうと竜が金にヒモをつけているのも見逃せない点で、これがないと▲7二金に△同玉と取られて失敗するところでした。
頭金をマスターして実戦で勝利を積み重ねましょう!
最後に本局の棋譜(きふ、一局の内容を符号で表したもの)を載せておきます。
【初手からの指し手】
▲7六歩 △3四歩 ▲2二角成 △同 飛
▲3三角 △6二玉 ▲2二角成 △1九角
▲1一飛 △2八角成 ▲4一飛成 △5一金
▲3二竜 △7一玉 ▲7二金 △投了
まで15手で先手の勝ち
■まとめ
今回導入した金・歩・と金によって将棋のつくりがより本格的になってきました。実戦に非常によく出てくる頭金の技を意識しながらたくさん練習してみましょう!
・二歩はよくありがちなミスなので気をつける
・行き所のない駒は反則なので、これが生じる前に成るようにする
・符号を使えば自分や他人の指した対局を記録・再現することができる
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。