将棋の戦法を学ぼう(13) 相横歩取り【持久戦編】
横歩取りは「最新定跡を知らないから指せない」という方は多いだろう。そんなときは、後手番で積極的に自分の土俵に持ち込むことができる相横歩取りがおすすめだ。
■アマに人気の戦法
今回は横歩取りを扱います。この戦型は青野流や勇気流といった最先端の研究のイメージを持たれがちですが、その反面相横歩取りや△4五角戦法など自分の得意形に持ち込むことのできる定跡も豊富で題材には事欠きません。横歩取りに興味を持つきっかけにしていただければと思います。
今回の主役は後手番。豊富な持ち駒を生かして積極的に指す指し回しに注目してください。
【初手からの指し手】
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩
▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 (第1図)
【第1図は▲3四飛まで】
第1図までは横歩取りの基本となる出だし。▲3四飛に対しては△3三角(△3三角戦法)や△3三桂(△3三桂戦法)もよく指されていますが、今回の後手は積極的に横歩を取り返す展開を志向します。とはいえ第1図からいきなり△7六飛は▲2二角成△同銀▲3二飛成(参考図)で失敗。
【参考図は▲3二飛成まで】
【第1図からの指し手】
△8八角成 ▲同 銀 △7六飛
▲7七銀 △7四飛 ▲同 飛 △同 歩 (第2図)
【第2図は△7四同歩まで】
7筋で飛車交換が行われて一段落。穏やかな駒組みに進むようですが、この戦型はおたがいの駒台に飛車と角という強力な攻め駒があるため絶えず自陣への大駒の打ち込みに警戒する必要があります。水面下に潜む強襲の筋に触れつつ駒組みを進めて見ましょう。
第2図からは大きく2つの候補手があります。まずは▲4六角(参考図)と打つ手。
【参考図は▲4六角まで】
▲4六角は玉の囲いもそのままに本格的な攻撃を開始する手で、激しい展開になることが予想されます。プロ間でも一時期さかんに研究されたことのある形で参考になる手筋も多いので、こちらの変化については回を改めて紹介することにしましょう。
もうひとつの候補手が▲8三飛と打つ手で、こちらは自陣に竜を引き付けてじっくり指す方針。後手に乱戦を仕掛けられた先手側としては相手の注文を外したいときに有力です。
【第2図からの指し手】
▲8三飛 (第3図)
【第3図は▲8三飛まで】
前述の通り▲8三飛は比較的穏便な手。対してはいくつかの応手があるので順に見てみましょう。まずは①△8二飛(参考図)と打って飛車成りを拒否する手。
【参考図は△8二飛まで】
参考図からは▲8四歩△7二金▲8二飛成△同銀▲8三歩成△同銀▲8二歩△7三桂▲8一歩成が一例で先手有利。手順中、▲8二歩に△同金は▲5五角の金香両取りが厳しく残ります。飛車角歩だけで手ができてしまうのが相横歩取りのこわいところですね。
なお細かいですが、▲8二歩を入れずに単に▲5五角と香の両取りをかけるのは△2八歩▲同銀△2五飛の切り返しで紛れます。
続いて、▲8三飛に②△8二歩(参考図)の変化も案外有力です。
【参考図は△8二歩まで】
対しては▲6三飛成と急所に竜を作って有利に思えますが、そこで△2七角▲5三竜△5二歩▲5六竜△4九角成!▲同玉△6九飛で後手有利。こうなると先手は飛車を手放してしまっているのが響き、▲5九飛と合駒して8九の桂を守ることができなくなっています。この△2七角~△4九角成の反撃は相横歩取りに頻出する手筋なので絶対に覚えておいてください。
△8二歩に対してはワナにかからず▲8六飛成と引き成っておけばこれからの将棋で互角です。
以上の手順を踏まえて、▲8三飛の打ち込みには③△7二銀がよいのではと考えることになります。
【第3図からの指し手】
△7二銀 ▲8六飛成 △6四角
▲2六竜 △3三桂 ▲5八玉 △5二玉 (第4図)
【第4図は△5二玉まで】
△7二銀に▲8二飛成とするのは本譜同様に△6四角で9一の香は取れません。▲2六竜と回って桂取りを見せたとき、持ち歩を温存して△3三桂と跳ねるのが後手自慢の積極策でした。対して▲2一竜と入るのは△2二飛(参考図)の合わせで無効。
【参考図は△2二飛まで】
ただし、先手が3八銀型のときはここで▲1一竜と踏み込まれる手があるので気をつけてください。その場合は△3三桂に代えて△2二銀と大人しく受けておきましょう。
いずれのケースでも△2三歩や△2二歩と歩を打って収めるのはNG。持ち歩をできるだけ温存しておくのが相横歩取りのコツで、その効果はあとで出てきます。
【第4図からの指し手】
▲3八金 △9四歩 ▲4八銀 △9五歩
▲2四歩 △2二銀 ▲8七歩 (第5図)
【第5図は▲8七歩まで】
しばらく駒組みが進みますが、後手はいつでも仕掛けのタイミングを探っています。具体的には△9四歩~△9五歩と伸ばしたのがそれで、9筋の端攻めから持ち駒の飛車を先手陣に打ち込むのがメインとなる攻め筋。▲2四歩の垂れ歩に△2五歩と打ちたい気持ちをこらえて△2二銀と上がったのも好手です。
また、先手が▲8七歩と受けたのはやむを得ないところで、この手に代えてたとえば▲1六歩などでは△9六歩▲同歩△9八歩▲同香△9九飛▲8八金に△8七歩(参考図)でシビれます。
【参考図は△8七歩まで】
参考図では後手の飛車が存分に働きそうなのに対し、先手の竜が攻めにも守りにも中途半端な駒になっていることがわかると思います。このように、相横歩取りで先手が穏便に収めてきたとき、後手は先手の竜を遊ばせるように心がけるのがよい方針のようです。
【第5図からの指し手】
△9六歩 ▲同 歩 △9八歩
▲同 香 △9九飛 ▲8八金 (第6図)
【第6図は▲8八金まで】
△9八歩と叩いて△9九飛と打ち込むのは相掛かり系の将棋では頻出の手筋。▲8八金と寄られては△9六香にも▲同竜があり、後続手がなくなったようですが…。
ここで後手に5手1組の好手があるので考えてみてください。
【第6図からの指し手】
△8六歩 ▲同 銀 △9六香
▲同 香 △9七歩 (第7図)
【第7図は△9七歩まで】
△8六歩の合わせが竜の利きを止める絶妙手。▲同銀には△8七歩があるため先手はこれで困っています。こうした変化になると持ち歩をなるべくキープしておいた効果が目いっぱいに出ていますね。
第7図から①▲9七同金には△8九飛成、②▲同銀には△同角成▲同金△8九飛成、②▲同桂には△8六角~△4九銀、④放置しても△9八歩成が厳しくすでに収拾がつきません。相横歩取り後手番の積極策が実る結果になりました。
■まとめ
・相横歩取りは序盤から大駒が飛び交う仕掛ける乱戦で、基本的には後手に選択権がある
・先手は飛車交換後に▲8三飛と打ち込むことで局面を穏やかにすることが可能
・後手は豊富な持ち駒を生かした先攻を目指す。特に香頭を叩いて飛車を打ち込む手筋が必修
・後手はなるべく持ち歩を温存したい。△2三歩や△2二歩は最後の手段ととらえておこう
■参考棋譜
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩
▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △8八角成
▲同 銀 △7六飛 ▲7七銀 △7四飛
▲同 飛 △同 歩 ▲8三飛 △7二銀
▲8六飛成 △6四角 ▲2六竜 △3三桂
▲5八玉 △5二玉 ▲3八金 △9四歩
▲4八銀 △9五歩 ▲2四歩 △2二銀
▲8七歩 △9六歩 ▲同 歩 △9八歩
▲同 香 △9九飛 ▲8八金 △8六歩
▲同 銀 △9六香 ▲同 香 △9七歩
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。
