将棋の戦法を学ぼう(14) 相横歩取り【乱戦編】
相横歩取りのなかでも、飛車交換のあとに角を打つ変化は特に激しい展開になりやすい。プロ棋界でも一時期さかんに研究された激戦の応酬を体感してみよう。
■もっとも激しい変化
前回の【持久戦編】に引き続き、相横歩取りの定跡を紹介していきましょう。
【初手からの指し手】
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩
▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △8八角成
▲同 銀 △7六飛 ▲7七銀 △7四飛
▲同 飛 △同 歩 (第1図)
【第1図は△7四同歩まで】
ここまでの進行は前回と同じ。ここで▲4六角と打つのが狙いすました先手の反撃です。
【第1図からの指し手】
▲4六角 (第2図)
【第2図は▲4六角まで】
見ての通り単純な香取りですが、これが意外と受けづらい。△8二歩と打つのが自然なものの、これには▲8三歩△7二金▲8二歩成△同銀▲8三歩△7三銀▲同角成△同桂▲8二歩成△同金▲7一飛(参考図)で先手良し。▲7一飛に△6一飛の受けも▲8三歩△7一飛▲8二歩成で飛車が捕獲されて後手不利です。
【参考図は▲7一飛まで】
第3図に戻って、香取りを受けるために△6四歩という一風変わった手が指されたこともありますが、これには▲2八飛(参考図)の自陣飛車で局面を落ち着けるのが場合の好手。△2二歩や△2三歩の受けを待って▲6四角と出れば▲9一角成と▲5三角成の両狙いを成って先手指しやすそうですね。
【参考図は▲2八飛まで】
なお▲4六角に代えて単に▲5五角と打つのは△2八歩▲同銀△2五飛の角銀両取りでしびれます。
【第2図からの指し手】
△8二角 ▲同角成 △同銀
▲5五角 △8五飛 ▲8六飛 △同飛
▲同銀 (第3図)
【第3図は▲8六同銀まで】
8二の地点に銀を呼んでおいて▲5五角と打つのが先手の狙い。こうすることで△2八歩には▲8二角成の手抜きが可能になっています。とはいえ後手の△8五飛も手筋の切り返しで、▲8六飛△同飛▲同銀の交換を入れることで先手の左銀を守りからはがすことに成功しています。
なお、▲8六飛の受けに対して△5五飛と角の方を取るのは▲8二飛成(参考図)で先手優勢。角銀交換の駒得とはいえ後手の飛車は働きが悪く、△5七飛成に▲5八歩ではじき返されてしまいます。対して先手の竜は▲8一竜や▲7二銀など急所に利いており無駄がありません。
【参考図は▲8二飛成まで】
【第3図からの指し手】
△2八歩 ▲8二角成 △2九歩成
▲4八銀 △3八歩 ▲8一馬 △3九と
▲同 銀 △同歩成 ▲同 金 (第4図)
【第4図は▲3九同金まで】
手筋の△2八歩に手抜きで応じて激しい攻め合いがスタート。第4図まではほぼ一直線ですが、途中の△3八歩に代えては△2七角(参考図)もあるので軽く触れておきましょう。
【参考図は△2七角まで】
参考図からは▲7三歩が好手。以下△2八と▲7二歩成△5二金▲6一飛△4二玉▲6二とのときに△4九角成が怖いですが、▲同玉△3八金▲5八玉△4八金に▲6八玉と逃げてからくも耐えています。相横歩取りの急戦にはこのようにすぐに王手がかかる激しい変化が潜んでいるので指すときには正確な読みが求められます。
さて第4図、ここで後手の指し手は△5五角と△4五角に大別されますが、今回は王道ともいえる△5五角の変化を見てみましょう。
【第4図からの指し手】
△5五角 ▲7二銀 △3七角成
▲6八玉 △7六桂 ▲7七玉 △5九馬
▲7六玉 △7五銀 ▲同銀 △同歩(第5図)
【第5図は△7五同歩まで】
おたがいにわき目もふらず攻め合いを求めます。△3七角成の王手には▲4八桂と合駒をするのが無難そうですが、「自分が楽をすれば相手も楽になる」のが将棋の常。こちらも△5二銀(参考図)と手を戻されてみると、攻めに使うはずの桂を手放してしまった先手は一気に攻め手に困ることになります。
【参考図は△5二銀まで】
リスクを取らなければ勝てないのが相横歩取りの宿命。△7五銀の王手にはどう対応するのがよいでしょうか。
【第5図からの指し手】
▲8五玉 △8六飛 ▲7四玉 △8一飛
▲6一銀成 △同 飛 ▲7三桂 △7一飛
▲6一金 △同 飛 ▲同桂成 △4二玉
▲6二飛 △3三玉 ▲3五銀 (第6図)
【第6図は▲3五銀まで】
この辺りの攻防は先手玉の詰む・詰まないの判断が形勢に直結するため、たとえば将棋AIの評価値を安易に鵜呑みにすることはできません。
△7五同歩の王手に対して①▲6五玉は上部に逃げ出し安全なようでいて、実は最も危険な一手。△7二金▲同馬と質駒の銀を取られたあと、△6四飛▲5六玉△6五銀△4五玉△3三桂▲3六玉△3五歩▲27玉△2四飛(参考図)が一例でなんと先手玉は即詰みに討ち取られてしまうのです。
【参考図は△2四飛まで】
手順中、△6五銀の王手に▲4六玉と逃げるのも△3七銀と打たれて、長手数ながら先手は詰み筋を免れません。このあたりの詰み手順はぜひ実戦投入前に研究しておくことをおすすめします。
△7五同歩の局面に戻って、②▲6六玉は考えられる一手。先手玉に即詰みはないため後手は△8六飛の王手から無理やり馬を抜く筋に懸けてきますが、▲7六歩と軽妙な合駒で応じておきます。続いて△8一飛▲同銀不成 △6四銀▲5六歩 (参考図)が進行の一例で、ここまで進めば先手有利。
【参考図は▲5六歩まで】
参考図では持ち駒の乏しい後手に攻めの手段が難しく、逆に先手からは▲8二飛の攻めが厳しく残ります。後手としても△8一飛と馬を取る手に代えて△7二金▲同馬△5四銀などほかの手段があるため簡単ではないのですが、総じて②▲6六玉の変化も先手にとって有力と結論付けて問題なさそうです。
本手順としては③▲8五玉の変化を採用しました。これも有力で、馬を犠牲に自玉の安全を買うのがその目的。△8一飛と馬を外された手に対して▲6一銀成と金の方を取るのがこの戦型特有の速度感覚です。
しばらく進んだ第6図は後手玉を上下からの挟撃にすることができており、ここまで進めば先手優勢と言って差し支えないでしょう。
とはいえ、繰り返しになりますが後手からのハメ手や勝負手がゴロゴロ転がっている終盤戦なので簡単に先手勝ちと思っていると実戦で痛い目を見るかもしれません。そのあたりは実戦経験を重ねて詳しくなっていただければと思います。
■まとめ
・飛車角総交換ののち、▲4六角が先手の切り札で盤上は乱戦に
・攻め合いに突入してからは一歩もスピードを緩めないこと、とくに下手に持ち駒を使って受けると攻め駒不足に陥る
・△7五同歩の局面は相横歩取りにおける長年のテーマ図。AIの評価値を鵜呑みにせずに王手の筋を丁寧に読んでいこう。
・自玉の安全のためなら馬の犠牲も惜しまない
■参考棋譜
▲7六歩 △3四歩 ▲2六歩 △8四歩
▲2五歩 △8五歩 ▲7八金 △3二金
▲2四歩 △同 歩 ▲同 飛 △8六歩
▲同 歩 △同 飛 ▲3四飛 △8八角成
▲同 銀 △7六飛 ▲7七銀 △7四飛
▲同 飛 △同 歩 ▲4六角 △8二角
▲同角成 △同 銀 ▲5五角 △8五飛
▲8六飛 △同 飛 ▲同 銀 △2八歩
▲8二角成 △2九歩成 ▲4八銀 △3八歩
▲8一馬 △3九と ▲同 銀 △同歩成
▲同 金 △5五角 ▲7二銀 △3七角成
▲6八玉 △7六桂 ▲7七玉 △5九馬
▲7六玉 △7五銀 ▲同 銀 △同 歩
▲8五玉 △8六飛 ▲7四玉 △8一飛
▲6一銀成 △同 飛 ▲7三桂 △7一飛
▲6一金 △同 飛 ▲同桂成 △4二玉
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。
▲6二飛 △3三玉 ▲3五銀
