将棋を学ぼう(1)
将棋を始めようと思ったとき、その駒の種類の多さや盤の大きさに面食らってしまったことがある方も多いのではないでしょうか?このページではいくつかの駒の動きを使いながら、実際の対戦を行ううえで必要な最低限のルールについて説明していきます。
■この項で学ぶこと
駒の動き(玉・飛・角)/駒を取る/駒を打つ/王手/勝敗のつけ方(投了)/先手・後手ほか
■まずは駒の動きから
将棋を始めるにあたっては、まず駒の動きを覚えるのが大切です。将棋には玉将(王将)、飛車、角行、金将、銀将、桂馬、香車、歩兵という8種類の駒があり、それぞれに固有の動きが決まっています。このほかに「と金」や「竜王」といった名前の駒を聞いたことがある方もいるかと思いますが、こうした成駒(なりごま、各駒がパワーアップした状態)については回を改めて説明することにしましょう。
いきなり8種類の駒の動きを覚えるのは大変ですので、今回は玉、飛、角の3つの動きを説明したうえで一試合(一局と呼びます)の流れを学ぶことにします。
まずは玉将(王将)について。将棋は相手の王将を先につかまえたほうが勝ち、つかまえられたほうが負けというゲームですので、この駒の扱いはつねに問題になってきます。なお便宜上これ以降、駒の名前については「玉将」→「玉」、「飛車」→「飛」といったように一文字で表記することにします。また、玉と王はゲームの戦略上まったく同じ機能を果たすため統一して玉として扱います。
上図に示されている通り、玉は自分の周りであれば好きな方向に一マスまで進むことができます。自然と、将棋盤の隅にいる場合は次のような動きになりますね。動けるマス目は最大で8マス、最小で3マスです。
次に飛の動きをご紹介します。下図のように、飛はタテとヨコに好きなだけ動くことができます。「飛は十字に動く」と覚えるとよいでしょう。
縦横に動ける飛とは対照的に、角はナナメに動くのがその特徴。飛と比べると慣れるまでは大変ですが、最初のうちは指で線をなぞるようにしながら動かしても構いません。
これでひとまず、将棋に出てくる8種類の駒のうち3種類を知ることができました。さっそく実戦といきたいところですが、その前にいくつか注意点を確認しておきましょう。
■相手の駒は取れる、自分の駒は取れない
駒の動きの基本がわかったところでさっそく実戦です。下図のような初期状態を準備して、一手交代で試合を進めていきましょう。なお将棋では試合のことを対局、先攻の人のことを先手(せんて)、後攻の人のことを後手(ごて)と呼びます。
対局を始める前に3点ほど注意点を付け加えておきます。まずは自分の駒を自分の駒がジャマしている場合について。
上図のようなケースで先手が飛を大きく前に使いたいとします。前方には自らの角が控えていますが、この場合、先手の飛は角の1マス手前までしか進むことができません。のちに出てくる桂を除き、駒は味方の駒を飛び越えることができないという決まりになっています。
つづいて自分の駒を相手の駒が邪魔している場合について。上図のような状況で先手が飛を前に進めるとき、この飛は相手の角がいる場所まで進むことができ、同時に相手の駒を盤上から取り上げることになります。こうした動作を「取る」と呼び、取られた相手の駒は盤外に設置された駒台(こまだい)に置かれます。また、取った駒は自分の手番で使うことができますが、これについては次項で説明します。
お手元に駒台がない場合はコースターなどで代用しても構いませんし、あるいは盤のそばの空いたスペースに置いておいても構いません。おたがいがどの駒を持っているかという点は戦略上重要ですので、実際の対局の際は相手から駒台が隠れないように注意してください。
■いよいよ実戦!(1局目)
ここからいよいよ実際の対局形式で一局の将棋の流れを見てみましょう。どちらが先手・後手になるかは正式には振り駒(ふりごま)と呼ばれる決め方がありますが、最初はジャンケンで問題ありません。
先手が角を取ってゲームスタートです。
後手は飛を進めてきました。
先手は飛を横に移動。
後手は飛を横に移動して玉を取りました!これで後手の勝利が確定です。先手は残念ながら負けとなってしまいました。
正式な将棋のルール(プロの対局など)ではこうした決着は王手放置(おうてほうち)と呼ばれ反則の一種となるのですが、はじめのうちはこのような「玉を取った」「取られた」という攻防もなかなかスリルのあるものとして楽しめるのではないでしょうか。
なお、上図では「先手が飛を前方に進めて後手の玉を取れるので引き分けなのでは?」と思われるかもしれません。しかし将棋が一手交代で行われるゲームである以上、1手でも先に敵玉を捕まえたほうが勝ちになるというのが条件。すなわち上図の時点で後手の勝ちが確定しているのです。
このゲームに慣れてくると、次第に「相手の玉を取れるように狙っていこう」だけでなく「相手は自分の玉を狙っているのではないか」と気づくようになってきます。このように、次に相手の玉を取れる状態のことを「王手(おうて)」と呼び、その状態にすることを「王手をかける」と呼びます。自分から王手をかけるだけでなく、相手からの王手に気づくのも上達の一歩ですね。
■どんどん指してみよう(2局目)
この反省を生かしてもう一局やってみましょう。ちなみに将棋では「将棋を打つ」とは言わず「将棋を指す」というのが正しい用語とされています。
先手はまずは飛が大きく前進、角を取る戦果を挙げました。
対して後手も同様に飛で角を取ります。
ここで先手は角を盤上に放って王手をかけました。このように、駒台の駒(持ち駒)を盤上に復帰させることを「打つ」と呼びます。将棋をすることは「指す」と呼ぶという話がありましたが、この動作に関してのみは「打つ」と言って差し支えありません。
さて、この王手に気づいた後手は玉を1マスよろけて退避。
先手は角を大きく使って飛を取ることに成功しました。
飛を失った後手はここぞとばかりに角を打って反撃、飛を取り返そうと画策してきました。
飛が逃げることを考えた先手ですが、思い直して攻めに舵を切ります。盤上の飛でなく駒台の飛を打ったのがうまい一手。これで後手玉に王手をかけることができました。
王手をかけられていることに気づいた後手ですが、玉がどのように逃げても2枚の飛のいずれかに取られてしまうことがわかりました(一例として下図)。
実際の対局では玉が逃げて飛に取られるところまでやっても構いませんが、慣れてくるにつれて今回の後手のようにいわゆる「負け確定」の状況を受け入れて諦めることも出てくることでしょう。このような場合は「負けました」あるいは「参りました」と言って負けを受け入れることで終局とすることが認められています。これを「投了(とうりょう)」と呼び、実力者同士での対局ではこの投了での終局が大半を占めることになります。
■まとめ
今回は駒の動きのうち玉・飛・角の3種を学び、これらを使って実際の対局を追体験していただきました。次回以降は残った他の駒の動き方のほか、よりよい王手の仕方などの戦略について考えてみたいと思います。
・駒は8種類ありそれぞれに固有の動きがある
・一手交代に自分の駒を動かして、先に相手の玉を取ったほうが勝ち
・終局には王手放置などの反則のほか投了による決着もある
・次に玉を取るぞと狙う手を王手と呼ぶ
執筆者
水留啓(みずとめ けい) 将棋ライター・将棋講師(アマチュア四段)
日本将棋連盟コラム(2019年)、将棋情報局ヤフーニュース(2022年~)を担当。
ねこまど将棋教室にて子供から大人、初心者から有段者まで幅広く指導を継続(2017年~)するほか、専門書の執筆などにも活躍。「プロの実戦に学ぶ美濃囲いの理論」「『次の一手』で覚える実戦手筋432」(構成担当)ほか。